原告第7準備書面
2021年12月24日提出
原 告 株式会社村田商店
被 告 遠藤 千尋
原告第7準備書面
第1 本件裁判の本質
1 本件記事全体
本件記事(甲2)は,大きなポイントと鮮烈な書体の文字によって,「山林侵奪」(2頁)との表現が冒頭に据えられ、記事内において,不法掘削(1頁本文5行目)不法行為(1頁本文8行目)不法行為(12頁5行目)不法に占拠(29頁本文6行目)裁判(3頁本文8行目)刑事告訴(3頁本文11行目)現行犯逮捕(4頁本文2行目)起訴猶予(4頁本文4行目)など犯罪性,違法性を示すような文言がちりばめられ,記事全体として,原告の違法性,犯罪性を強烈に印象付ける記事とされている。
そして,被告は,本件記事の冒頭及びFACT.5において、原告の営業活動について,同じく大きなポイントと鮮烈な書体の文字によって「奈良ブランド豚肉『郷ポーク』」(3頁)「奈良を代表するブランド肉」(55頁)「奈良のタウン情報誌や有名レストランからも支持される奈良を代表するブランド肉」(55頁)などと記載し,原告の犯罪性,違法性と原告の営業行為を意図的に結びつけている。
そして,原告は,被告の目算どおり,本件記事のネット掲載によって、養豚場経営という営業上の大打察を受けるに至った(〈村田商店代表乙の父〉証言11頁〜12頁)。
2 ネット社会における私刑
本件記事掲載は,現在社会で極めて大きな問題とされている「ネット社会における私刑」の典型例である。
「ネット社会における私刑」の重大な問題点は,次の通りであって,それが,本件記事の重大な問題である。
(1)適正手続保障違反
まず,「ネット社会における私刑」の重大な問題点は,本来,犯罪や違法行為は,司法手続でこそ裁かれなければならないのに,司法手続を経ずに私的に裁かれる、という点にある。
すなわち,犯罪や違法行為は,構成要件(ないし要件事実)該当性,公正な事実認定,緻密な利益衡量,釈明権の保障等があってこそ、認定されるべきであるのに,「ネット社会における私刑」においては,そのための裁判手続が履践されることなく、犯罪性や違法性が認定されたり公表されるのであって,それは,実質上,憲法の保障する適正手続の保障(憲法31条)に違反する私権の制限である。
本件において、犯罪性,違法性の対象とされた事項は,いずれも,一見して自明でなく,極めて慎重に検討するべき事項ばかりである。
山林侵奪の認定の前提である山林境界の確定は,民事裁判において,裁判官のみならず,土地家屋調査士や測量士などの専門家の協力のもと,その緻密な事実認定と法的評価によって初めて適正に確定できるものである。
また,本件で問題とされている公道通行権や水質被害についても,生活権,水利権,歴史的環境権等と営業権の調整が必須とされるところ,そのための緻密な事実認定と法的価値判断は、民事裁判でこそ実現できる。原告代理人は,かつて桜の名所,奈良県の吉野において建設計画された「吉野桜ゴルフ場建設差止訴訟」に関与し,建設差止の勝訴判決を得たことがあるが,このときは,地質学者,水利権者,古代史学者,万葉学者などを総動負して,営業権を上回る環境権,水利権等の主張立証を尽くしたものであった。
しかしながら,本件記事掲載は、水利権等の私権制約の実態や当該地の歴史的価値の社会的評価等が適切に分析されることもなく、一方的に,原告の営業権に「私刑」を下しているのである。
そのうえ,不動産侵奪については,司法が,刑事手続及び民事裁判において,その違法性を否定したにもかかわらず,それと異なる「私刑」を下しているのである。
したがって,本件記事が,実質的に,適正手総保障(憲法31条)に違反する記事として許されないことは明らかである。
(2)表現の自由と責任
次に「ネット社会における私刑」の重大な問題点の一つが,発信者の匿名性である。
ネット記事掲載も「表現の自由」(憲法21条)の保障下にある。しかしながら,表現の自由を享受する者は,その責任も背負う必要がある。「ネット社会における私刑」の問題性は、発信者が匿名であって,自分の表現に責任を持たない構造になっていることである。
すなわち,匿名記事は、責任負担がないことによって,表現に虚実が織り交ぜられ,かつ,必要以上に苛烈になるのである。
たしかに、国民の表現の自由は,個人の尊厳(憲法13条)と国民主権、民主主義のために不可欠である。しかし,個人の尊敬,国民主権,民主主義に資する表現の自由とは,責任を伴う自由でなければならない。「ネット社会における私刑」の匿名記事は、自己の責任を負担しない記事であって,本来、声高に,表現の自由を主張できるような資格を有するものではないと考える。
本件記事も,匿名で掲載されている記事である。執筆者である被告の氏名住所は,本件記事中で全く明らかにされていない。「弥勒の道プロジェクト」などというのも,法人格もなく権利能力なき社団としての社団性もなく,法的責任の主体とはならない。
従って,本件記事は,内容において,本来許されない「私刑」であるばかりか,匿名で貴任を負う覚悟のない記事であるので、表現の自由を享受し得ない記事であると評価するべきである。
(3)小括
以上の通り,本件記事掲載は「ネット社会における私刑」の典型例である。
「ネット社会における私刑」は,背後に,差別意識も見え隠れする。原告の経営する養豚場が,そもそもの「嫌悪施設」なのである。訴外〈加茂町B〉の証言における「同和発言」(〈加茂町B〉証言2頁,ただし証言内容は事実と異なる)も,根底に,嫌悪施設に対する差別意識がある。
また、別件であるが,奈良市クリーンセンター(ゴミ焼却場,嫌悪施設)の移設計画がなされ,奈良市の計画策定委員会(原告代理人も委員)で,本件地域が移転候補地として決定されたのに,それに対する反対運動の急先鋒になったのが本訴で陳述書を提出している浄瑠璃寺(乙137)であった。
したがって,本件には,嫌悪施設とその事業主に対する差別意識が根底にある。
以上,本件記事掲載は,「ネット社会における私刑」の典型例として,憲法の適性手続保障(31条)に実質的に反し,かつ、記事掲載者は匿名により,責任を回避しており、表現の自由を享受すべき者とは評価し得ず,かつ,背後に差別意識が見え隠れしているものである。
裁判所は,この「ネット社会における私刑」という現代的問題に対して,警鐘を鳴らすべく,本訴において適切な判断をしていただきたい。
以下では,記事の個別内容に関する真実性と相当性の主張を行うが、上記本件の本質からして,原告は,本件記事の全面的削除を求めるものである。
第2 不動産侵奪(FACT.2)
不動産侵奪の記事については、真実性、相当性なく,名誉棄損の違法性は免れない。
1 本件土地1の不法掘削
〈村田商店代表乙の父〉の掘削行為は借地契約の内容に含まれるとし,〈村田商店代表乙の父〉が本件土地1の掘削権限を有していたとする民事裁判が,平成24年4月に確定している。そして,本件記事が掲載された平成28年6月時点において,上記裁判は確定しており、かつ,被告は,〈東鳴川C〉からその裁判内容を聞いて知っていた。
よって、本件土地1の不法掘削に関する記事については,真実性も相当性も認められないことが明らかである。
2 本件土地1の不法占有
〈村田商店代表乙の父〉の本件土地1の占有権限としては,借地契約が継続的に存在していたものである。
すなわち,上記裁判の反訴事件において,賃貸人の償務不履行を原因とする,原告からの借地契約の解除は,認容されなかった。そして,その後、借地契約当事者のいずれも,相手方に対して,契約解除の意思表示をしなかった。ましてや,本件土地1について,訴外〈東鳴川C〉から原告に対して,土地明渡請求がなされたことは訴訟内外を通じて一度もなかった。
加えて、令和元年8月27日,〈村田商店代表乙の父〉の長女〈村田商店代表乙〉は,訴外〈東鳴川C〉から,本件土地1を購入し,かつ,過去の貸料の一部の精算も行っており,賃貸借契約当事者間の円満な関係が窺われる。
よって、占有権限としての借地契約は継続していたのであって,本件土地1の不法占有に関する記事は,真実性が認められない。
そして,被告は,本件記事において「質貸借契約はどのような解釈によっても解消している」と記載するが,そのような法解釈については専門家に確認するなどしているわけでなく、法的に素人の独断的解釈に過ぎない(遠藤証言24頁〜)。
よって、本件記事掲載には相当性も認められない。
2 本件土地2の不法掘削
(1)真実性
ア 被告主張の境界線の誤り
被告の主張する境界線は,201点と300点を結んだ直線である(乙144号,別紙2)。
しかしながら,木津川市作成の「市有土地境界図」は,甲7の3から甲7の4に変更されており,その結果,府県境界は、201点から北方向の202点に変更されている。この点,被告は,府県境界と民民境界とは別と主張する(〈加茂町B〉証言7頁,遠藤証言28頁)が,府県に跨る民民境界と府県境界は同一であって,別ということはあり得ない。よって,201点を境界点とする被告の境界線の主張は誤りである。
また,山林の境界は直線ではあり得ず,本件土地付近では、北側に膨らんでいる(甲13)し,「山の膨らみ」を訴外〈加茂町B〉も認めている(〈加茂町B〉証言5頁)。したがって,直線と主張する被告の境界線の主張は誤りであって,境界線は,もっと北側に膨らむはずである。
また,被告が現況航空写真に被告の主張する境界線や住宅地図を重ねて示した重ね図(乙88の5)は,現況の近隣住民の占有状況と全く合致していない。そして,その不一致は,被告自身が認めている(遠藤証言29頁)。
よって,被告の主張する境界線は,真実の境界線ではない。
イ 境界尾根
加えて,一般論として,山林の尾根が山林の境界とされることが多いということ(以下「境界尾根」という)を、訴外〈村田商店代表乙〉が土地家屋調査士から聞いており(〈村田商店代表乙〉証言9頁)、被告もそれをを認めているところ(遠藤証言31頁),乙144号,別紙2の図面において,被告主張の境界線の遥か北側,〈村田商店代表乙の父〉による掘削地域の北側に,(((の膨らみが尾根として記載されており,また,乙88の1の航空写真における山林の濃淡からも(〈村田商店代表乙〉証言9頁)、「境界尾根」が〈村田商店代表乙の父〉による掘削地域の北側にあることが推察される。・そして,〈村田商店代表乙の父〉は,その「境界尾根」に松の木が5本植えられており,当時の地主訴外〈東鳴川C〉からは,それが,山林境界と指示されたことを具体的に証言し(〈村田商店代表乙の父〉証言2頁),310点当たりから東(図面右手)に伸びる線が自己の主張する境界線である旨,「境界尾根」に一致した証言をしている(〈村田商店代表乙の父〉証言26頁)。
また,〈村田商店代表乙の父〉は,山林伐採及び整地工事を土木専門家である〈掘削工事をした建設業者〉に依頼したが,山林整地には有効利用できない斜面を確保しなければならないところ,〈掘削工事をした建設業者〉は、その斜面の確保のため、あえて「境界尾根」を超えて,逆斜面の山林を伐採する必要性が全くない。
そして,〈村田商店代表乙の父〉は,当時,境界指示内の適正工事と認識していたからこそ,問題解決のため、積極的に,訴外〈東鳴川C〉に対して民事調停を提起した経過がある(〈村田商店代表乙の父〉証言6頁)。
他方、訴外〈加茂町B〉は、そもそも、本件土地2を全く管理しておらず放ったらかしにしていたのであり(〈加茂町B〉証言9頁),立木の種類さえ知らず(同10頁),山林境界の認識など無かったのであった。
そして、訴外〈加茂町B〉は、「境界尾根」に至らぬ,斜面「中腹」あるいは「3分の2」あたりで〈村田商店代表乙の父〉の掘削に抗議したと証言しかつ、最後は「頂上」まで掘削されたと証言しており(〈加茂町B〉証言14頁〜15頁),〈村田商店代表乙の父〉の掘削によって「境界尾根」が侵害されていないことを認めている。
よって,〈村田商店代表乙の父〉は、「境界尾根」を超えて,本件土地2を不法侵奪していない。
ウ 告訴事件
更に,当時,訴外〈加茂町B〉は、不動産侵奪罪で,〈村田商店代表乙の父〉を告訴したが,〈村田商店代表乙の父〉は,不起訴処分(嫌疑なし)となっている。そして,検察庁は,〈村田商店代表乙の父〉の処分にあって,後付で作成された境界確認書(乙104等)は不動産侵奪の証拠とならないと一蹴したのであって(〈村田商店代表乙の父〉証言8頁),その法的判断は適切である。
以上,アイウからして,本件土地2の不法侵奪は真実でない。
(2)相当性
そして,被告は,〈村田商店代表乙の父〉に対する告訴が不起訴となったことを知っており,かつ,起訴猶予に過ぎないと信じる正当理由がなかったし,また,境界確認図が掘削行為後の後付で作成されたという時系列も認識していた。
また,被告は,土地家屋調査士など専門家の意見を聞くこともなく,専門的知識のないまま,境界を主張しているに過ぎず,その主張の問題点や疑問点を検討しようともしなかった。
加えて、木津川市作成の「市有土地境界図」については、木津川市から使用に配慮するように指摘があったにもかかわらず(甲8),それを無視して,虚偽の境界線の根拠として使用し続けている。
よって,被告の記事掲載には相当性もない。
第3 犬の放し飼い・公道の占拠(FACT.2)
1 犬の放し飼い
ア 本件記事は,原告が犬を放し飼いにしており,また,原告が放し飼いにしている犬により,浄瑠璃寺等において、猫が噛み殺されてしまう被害や,糞尿を残していくといった被害が生じている,と記載されている。
かかる記事内容からは、養豚場周辺,ひいては,浄瑠璃寺周辺まで範囲を広げ目撃されている犬は、全て原告の飼い犬であり,その犬らによる被害が出ているという印象を一般読者をして与えるものである。
イ 事実,被告本人尋問において,被告は,養豚場周辺にいる野犬については,ほぼ全て養豚場の飼い犬であると認識しており,その認識のもとに本件記事を作成した旨述べている。
平成28年4月6日に,浄瑠璃寺前住職の葬儀の際,原告の飼い犬が浄瑠璃寺に出没したと本件記事には記載されているが,被告の認識によっても,この頃,原告は,養豚場敷地内の小屋に,自らが飼育している犬を常に小屋に収めていたものであり,浄瑠璃寺に出没したという犬が原告の飼い犬である可能性は低いと思われるところ,被告は,同犬が養豚場に帰るのを見た,旨述べる。しかし、実際にこの犬が浄瑠璃寺から養豚場の敷地内に戻っているという状況を始終現認したものであるとは到底思われないし、過去に養豚場の方面に進む犬の姿を見たことがある,ということから,被告自身,前記犬が養豚場へと帰っていくものだと認識していた,という程度のものだと考えられる。(被告証言32〜34頁)
これらの陳述からしても,被告が,養豚場周辺(周辺といっても少なくとも刑瑠璃寺近辺までの相当広範囲であるが)で目撃される犬は、全て養豚場の飼い犬である,という認識のもと本件記事を作成していることは明らかである。
ウ しかし,かかる認識で作成された本件記事は、到底真実であるとはいえない。
そもそも,原告が養豚場で飼育している犬は,20ないし30頭であって,飼育している犬には首輪をし、名前をつけている。野犬に餌を与えた,ということもあるが,それは、子を産んだ野犬が腹を空かせている様子で寄ってきた際に,同情心からという程度のものであり,全て飼い犬と同様に扱っている,というようなものではない。
養豚場周辺で,100頭以上の野犬が捕獲されているうち,原告が引き取ったのは21頭である、ということからも,養豚場周辺には,原告が飼育している以外の犬が野犬として存在していることは明らかであるし,その数は,原告が飼育している犬よりも遥かに多いことがわかる。
エ 以上からすれば,養豚場ひいては浄瑠璃寺周辺で散見される犬が,全て原告の飼い犬であるかのように記載をする本件配事に真実性は認められない。
2 公道の占拠について
ア 原告本人尋問において明らかになったとおり,原告代表者や前代表者である〈村田商店代表乙の父〉らが,養豚場敷地内を通る里道を通行しようとする者に対して,恫喝をしていたというような事情は存在していない。
イ この点について,被告は,平成27年11月頃に,前記里道を通行しようとしたという〈市道通行人〉氏の陳述書(乙137)を提出しているが,この陳述書については,以下のとおりその内容の信用性は低い。
被告は,被告自身が管理をしている「弥勒の道プロジェクト」というツイッターアカウントにおいて,遅くとも平成27年5月頃には,原告の名前を挙げて投稿していたことを認めている。(被告証言35頁)その投稿内容は,原告本人尋問において陳述があったとおり,原告が経営する養豚場が里道を占用しているというような,本件記事に類する内容であった。
そして,〈市道通行人〉氏は,平成27年10月頃,被告が管理をする前記ツイッターアカウントに、ダイレクトメッセージ(アカウント同士で非公開のメッセージのやり取りをする機能)にて連絡をとり、前記里道を通行する上での注意点等について問い合わせをした、とのことであるが,被告本人尋問によれば,このとき,原告が里道を占用しているという記事に関して明確な問い合わせはなかったようである。(被告証言36頁)
〈市道通行人〉氏は,原告が管理する「弥勒の道プロジェクト」というツイッターアカウントにダイレクトメッセージを送信しているものであり,同アカウントの投稿内容については,当然認識をしているものであると思われるが,養豚場敷地内を通る里道に歴史上の関心を寄せ,その通行を希望している〈市道通行人〉氏が,原告が里道を占用し通行を妨害している,という情報について何らの問い合わせをしていないということは極めて不自然である。
ウ 以上のとおり,〈市道通行人〉氏の陳述書には不自然な点が存在し,また,被告が,本件記事において,被告自身の体験をあたかも第三者の体験のように記述をしていたという事実もあったことを踏まえて考えれば,〈市道通行人〉氏の陳述書に記載されているような恫喝行為を原告代表者や,〈村田商店代表乙の父〉らが行ったという事実を認定する根拠とはなり得ない。
エ したがって,本件記事における,原告による恫喝行為が行われ,原告が里道を違法に占拠しているという記載に,真実性は認められない。
第4 「公道を見捨てる奈良市行政(FACT.3)」
1 本件記事においては,原告が,養豚場敷地内の公道上において,常にトラックや重機を停めており,また,同公道上で,残飯の仕分け等の作業を行い、公道を違法に占拠している,という内容が記載されている。かかる記事内容についても,以下のとおり真実性は認められない。
2 そもそも原告は,前記公道上に,その通行を妨げる態様トラックや重機を停車していることはなく、常に仕分け作業をしているということはない。
前記公道については,養豚場敷地との境界について未確定なものであるが,原告は,養豚場経営に当たって,同公道を含むと思われる約3メートルの道幅について常に確保できる状態にしている。すなわち,原告が,公道上に常にトラックや重機を停め,公道を日常的に占拠しているという事実はない。
3 また,原告は,養豚場経営において,公道上を使用することはあるが,それは,豚の餌の運搬や積卸しという作業のためであり,同作業は,1日に午前と午後の1回ずつ、作業時間にして約10分程度のものである。1日に2回,10分程度の作そのために公道を使用していることがあったとしても、当然ながら「常に」ないし「日常的に」公道上で作業をし,通行を妨磨していると評価をすることは不可能である。
被告は,原告の公道上での作業を示す証拠として,乙133,乙134等を提示しているが,これらの写真は,原告が日常的に公道上で作業をし,その通行を妨害している根拠とはならない。なぜなら,前記各写真は,ある日ある特定の時間を切り取ったものに過ぎず,作業がどの程度の時間継続して行われたかということについて何らの推認をさせるものではなく,原告が作業をしている時間だけを恣意的に切り取ったものであると言わざるを得ないためである。
4 以上からすれば、原告が「常に」ないし「日常的に」公道上にトラックや重機を置き,また,公道上で作業をし,違法に公道を占拠している,ということを内容とする本件記事に真実性は認められない。
5 そもそも,前記公道は,年間に1,2組程度の通行人がいるかどうか,という程度の利用状況であり,その通行を妨害されている,という状況が生じているとは考え難い。
被告本人尋問において,前記公道について,鎌倉時代に行われていたという笠置もうでに用いられていた道ではないか,ということを被告自身が資料等から考え,歴史を理解する上で重要な道であると関心を抱いたことから,人々にその道のことを紹介するようになった旨陳述している。そして,前記公道が,奈良から笠置への弥勒信仰に向かう道であると考えたことから,「弥勒の道」という名をつけた,とも被告は陳述している。(被告証言2〜3頁)
すなわち,前記公道については,被告白身が個人的な歴史的関心を抱いたことから,人々への周知を個人的に開始したものであり,人々が従来生活道路として利用していた,という性質のものではない。また,もともと,歴史的価値のあるものとして認知,周知されていたものでもない。
第5 「赤田川下流の水質汚測(FACT.4)」
1 本件記事においては,赤田川下流の水質汚濁について言及し,その原因として原告が経営する村田養豚場の名前を挙げている。
被告は,本訴訟において、原因者が原告であると特定はしていない旨も主張しており、形式上「疑われている」等の文言を用いているものではあるが,本ファクトの記載内容を全体的に見れば、一般読者をして,「原告が水質汚酒の元凶である」との印象を抱かせるものであると言わざるを得ない。
しかし,以下のとおり,原告は赤田川下流の水質汚濁の原因であると論難されるいわれはなく,かかる記事内容についても真実ではない。
2 そもそも,原告は,養豚場事業者としての原告を所管する奈良市による排水検査において,法定の基準値を満たさなかったことはなく,当然,行政指導等を受けたこともない。法令の基準を遵守している中で,水質汚濁の原因者であるかのような記事をインターネットに掲載されること自体,原告の営業権に対する侵害行為であるといわなければならない。
3 被告は,本件記事作成に当たって参照した資料として,木津川市議会議事録(乙6)及び民間の水質調査レポート(乙89)を挙げる。
乙6については、〈木津川市議Q〉議員が,赤田川の水質汚濁について発議をし、その中で,「奈良市側の養豚場」として村田養豚場の存在を示していることは確認でき、〈木津川市議Q〉議員による同様の発議は幾度となく行われていることが確認できる。
しかし,この発議に対し,行政である木津川市の応答として,赤田川の水質汚濁については認識を示しているものの,その原因が村田養豚場にある可能性について明確に言及をしているという部分は見受けられない。
被告は、このような議論状況を見て,原告が赤田川下流の水質汚濁源と疑われている(本件記事内容は、水質汚濁源である可能性の適示にとどまるものではないことは前述のとおりであるが)、との認識を形成したということであると思われる。
しかし,乙6の内容からするに、木津川市議会として,原告が水質汚濁の原因である可能性を認め,その点についての議論がされているとは到底考えられない。すなわち,乙6については、議員からの発議に対し,行政が,そもそも原告が水質汚濁源である可能性すら認めてはいない上で応答をしている,ということが繰り返されているに過ぎない。
4 また,乙89については,純粋な民間の水質調査結果にどの程度の信用性が認められるのかという点についてはさて置くとしても,その調査結果として,赤田川の水質汚濁について言及した上で,その原因として考え得るものとして,「上流域にある産廃の山と養豚場の影響です」と記載されている。
この調査結果をみれば,産業廃棄物の山と養豚場については並列に記載されているものであり,養豚場が原因である,という可能性だけを示したものではないことは明らかである。にもかかわらず,本件記事においては、産業廃棄物が原因である可能性については,ほぼ言及されていない。
また,乙89において,「産廃の山と養豚場の影響です」と記載しつつ、具体的に養豚場の何が汚濁の原因となり得るのか,という点については全く言及されておらず,かかる調査結果から,養豚場が水質汚濁の原因であると考えることはあまりにも安直である。
5 以上からすれば,原告が赤田川下流の水質汚濁源であることを適示する本件記事に真実性は認められず,また,被告が,真実であると信じたことについても相当性が認められるものでは到底ない。