裁判編
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本裁判の詳細ではなく、村田養豚場(村田畜産/村田商店)に関する様々な問題をお知りになりたい方は、ぜひ本編をお読みください。
THE PUBLIC INTEREST
公益を目的
とした記事
村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、豚肉の畜産農場である「村田養豚場」の経営を業とする株式会社 であり、そこで飼育される豚肉は、「郷ポーク」として、奈良市内のレストランに出荷され、ブランド豚として名高い。
当会代表は、「弥勒の道プロジェクト」なるプロジェクトを立ち上げ(甲1)、そのプロジェクトの活動の一環として、「GO-PORK FACT 奈良ブランド豚肉『郷Pork(郷ポーク)』について知るべきこと」と題された記事(以下、「本 件記事」という。)をインターネット上に掲載した(甲2)。(訴状:第1 当事者)
<略>
本件記事の内容は、前に述べたように、村田養豚場が、他人所有地を権原なく掘削しているということや、犬を大量に放し飼いにし、公道を占拠しているといったこと、そして赤田川の水質汚濁の原因ともなっているというものであり、「郷ポーク」という奈良を代表するブランド豚を生産していることで知られているということを合わせると、これらの記事が村田養豚場を経営する村田商店の社会的評価を著しく低下させるものであることは明らかである。(訴状:第3 本件記事が村田商店の名誉を毀損するものであること)
本件記事中でも述べているとおり、村田養豚場から南へ伸びる道が県道33号と交わる地点には、奈良交通のバス停があり、その停留所名は、近年まで「浄瑠璃寺南口」とされていた。この停留所名からも、村田養豚場の敷地の間にある、木津川市あるいは奈良市の市道が、奈良側から浄瑠璃寺へ向かう多くの観光客に長らく利用されてきたことは明らかである。また、村田養豚場から南へ伸びる道の途中で、木津川市の市道が西側の山林に入っていくが、この道の歴史は古く、享保20(1735)年頃に出版された大和志には、中ノ川から西小田原(浄瑠璃寺周辺)へ抜ける道として、この道が「中川越」という名前で記録されている(乙73)。
さらに浄瑠璃寺の歴史を記録した古文書「浄瑠璃寺流記事」には、平治元(1159)年の十万堂棟上をはじめとして、中川寺の僧侶が度々浄瑠璃寺に出仕していた記録が残っている。すなわち、中川寺(奈良市中ノ川町にかつてあった寺院)から浄瑠璃寺へ至る道は、村田養豚場の敷地の間を通る道(以下「中川越道」という。)以外にあり得ないことから、中川越道が遅くとも平安時代後期に存在していたことは、古文書からも疑いようがない事実である。
当尾地域は、奈良の喧騒を嫌い、修行の地を山岳に求めた僧らによって、その歴史と文化が育まれてきた。中川越道は、まさにそうした僧らが歩いた道であり、当尾地域の歴史と文化のルーツを体現する道と言える。そしてこの中川越道は、名前を変えながら、弥勒信仰の聖地だった笠置山まで繋がっており、現在いわゆる「当尾の石仏の道」として多くのハイカーに親しまれている区間には、鎌倉時代から南北朝時代に造立された石仏が道沿いに点在している。このような歴史ある古い道を、一農場の身勝手な都合で、敷地の一部のように占用することは、到底許されない。まして、多数の犬が放し飼いにされ、その犬の一部が、当尾地域の観光ハイキングコースや、本来静謐であるべき浄瑠璃寺庭園(国の特別名勝)にまで現れる現在の状況は、極めて異常だと言わなければならない。しかも関連行政機関は、村田養豚場(村田畜産/村田商店)による犬の放し飼いを、未だやめさせられずにいる。これは行政が正常に機能していないことを示すものである。
また、赤田川の「アカ」は神仏に供える水「閼伽」に由来すると言われ、当尾地域のお年寄りは、昔の赤田川は非常に美しい清流だったと証言している。村田養豚場より下流の赤田川は当尾京都府歴史的自然環境保全地域に接しており、浄瑠璃寺奥の院付近は当尾磨崖仏文化財環境保全地区にも指定されている(乙9の2)。しかしながら現在の赤田川は、とりわけ村田養豚場のすぐ下流に位置する浄瑠璃寺奥の院付近において、ほとんど常に川の水が泡立ち、時には谷中に酷い臭いが充満するという状況にあり、かつての清流の面影はもはやなく、現状は「環境保全」からかけ離れたものとなっている。
本件記事は、上述のような、地域の持つ様々な価値が毀損され続けている現状を打開するべく公開された。本件記事は、地域の歴史と文化を育んできた古い道を後世に伝えること、地域住民と観光客を危険に晒している犬の放し飼いをやめさせること、本来静かで清らかな山村の魅力に溢れているはずの当尾地域の環境を保全すること、そのために行政による監視と指導を正常化させること、といった、公益を目的とするものであり、公益以外の目的は一切ない。
村田養豚場(村田畜産/村田商店)が訴状第1で指摘する通り、村田商店の経営する村田養豚場が生産する「郷ポーク」は、ブランド豚として名高い。本件記事 FACT 5 でも紹介したとおり、奈良市はふるさと納税の返礼品として「郷ポーク」を採用しており、「郷ポークセット」など「郷ポーク」を使用した返礼品を紹介するウェブページでは、「奈良が誇る、流通量の少ない希少なブランド豚」という表現を用いている(乙4)。
また平成30(2018)年5月には、奈良市の興福寺で行われた第76期名人戦において、奈良ホテルが佐藤天彦名人と羽生善治竜王のそれぞれに「郷ポーク」を用いた料理を提供したが、このことは新聞やテレビのニュースで、地元の食材が使われたという、明るい話題として取り上げられた(乙5の1・乙5の2)。
したがって、「郷ポーク」を生産する村田養豚場(村田畜産/村田商店)が、法令及びガイドラインを遵守しているか否かはもちろん、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が「奈良が誇る」にふさわしく、高い倫理観を持って行動しているかどうかについて、「郷ポーク」の消費者にくわえ、奈良県民、中でも奈良市民、さらには奈良を愛する多くの一般市民が、関心を寄せることは正当であると考えられる。
よって本件記事記載の事実が、公共の利害に関する事実に該当することは明らかである。村田養豚場(村田畜産/村田商店)自身、訴状において「郷ポーク」が「奈良を代表するブランド豚」であると自負しているのであるから、そのような「名高いブランド」を確立した現在、村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、自らが「奈良を代表する」にふさわしいかどうか、常に一般市民から問われ得る立場となったことを自覚しているべきであろう。
本訴訟は、本件記事が虚偽であるか否かが中核的争点であるので、本書面では、「公共目的や公共の利害」に関する反論も行わない。
第1回弁論準備手続において、公共目的および公共の利害については争点とせず、真実性・真実相当性のみを争点とすることが確認された。
事実の摘示による名誉毀損において、その行為が公共の利害に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合において、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、当該行為には違法性がなく不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、同事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、同行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和37年分第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年式第25号同58年10月20日第一小法廷判決・集民140号177頁等)。
また、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合において、当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性を欠き、不法行為は成立しない(最高裁昭和55年オ第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁、最高裁昭和60年オ第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁等)。
これを本件についてみると、本件記事に摘示された、村田養豚場(村田畜産/村田商店)の社会的評価を低下させると認められる事実は、村田養豚場(村田畜産/村田商店)の事業活動の適法性や村田養豚場が属する地域の生活環境に関わるものであるから、公共の利害に関する事実に当たると認められる。また、本件記事(甲2)の掲載は、その記載内容及び方法からして、村田養豚場(村田畜産/村田商店)の事業活動における違法行為の是正、村田養豚場が属する地域の生活環境の向上を企図したものであると認められるから、専ら公益を図る目的によってされたものであると認められる。