本編

FACT.4
赤田川下流の
水質汚濁

木津川市議会では、村田養豚場(村田畜産/村田商店)からの排水が、下流に著しい水質汚濁をもたらしている可能性について、長年にわたり何度も議論されています。そうした中、2017年(平成29年)には、農業被害があり得るレベルの水質汚濁が赤田川で検知されました。木津川市はこれを「府県境を跨ぐ公害問題」と捉えて詳細な水質調査を実施し、調査結果を確認した木津川市長は、奈良市長と奈良県知事に宛てて「赤田川の水質改善に向けて特段のご配慮」をお願いする文書を発出しました。その後赤田川の水質はやや持ち直したものの、今も汚い状態が続いています。

FACT.4 目次

山林掘削と同時期に問題化した赤田川の水質汚濁

赤田川の水質汚濁については、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が赤田川北側で山林を掘削しはじめたのとほぼ同時期の、2003年(平成15年)ごろから木津川市に記録が残っており、この時は木津川市となる前の加茂町が、奈良市に合同立入調査を申し入れました。しかし京都府側の立ち入りは村田養豚場(村田畜産/村田商店)から拒否されたといいます。その翌年の2004年(平成16年)からは、木津川市(当時は加茂町)による赤田川での定期水質調査が始まっています。なお、村田養豚場は奈良市と木津川市の市境にあり、村田養豚場からの排水はすべて、木津川市を流れる赤田川に流れこみます。またその合流地点は、奈良市上水道の木津川取水口の少し上流に当たります。

赤田川水質汚濁に係る主な経緯及び今後の対策

赤田川水質汚濁に係る主な経緯及び今後の対策

その後、木津川市議会では、村田養豚場の汚水処理が不十分であることが長年強く疑われてきました。村田養豚場は一時期浄化槽を設置していましたが、2015年(平成27年)ごろ養豚場を訪問した人に「コストがかかりすぎるから浄化槽は設置しない」と話したようですので、そのころまでには浄化槽を使用できなくなっていたとみられます。

2015年(平成27年)9月9日に、赤田川北側の長尾谷1-乙を所有するAさんから聞き取ったところによると、養豚場の少し下流の山林の持ち主が、以前は持ち山でしいたけ栽培をしており、しいたけ栽培のため川からポンプで水を汲み上げていたが、糞尿やゴミですぐポンプが詰まるとぼやいていたといいます。実際、下流は糞尿のようなヘドロでひどく汚れています。下写真は2014年(平成26年)2月23日、養豚場から400mほど下流の、小さな滝が連なるあたりで撮影されたものです。渓流にある水たまりにも、どろりとした茶色いヘドロがたまっています。撮影した人によれば、谷にただよう滝しぶきが乾いて、葉っぱやあたり一面白い粉をふいていたとのことです。

2014年2月23日に撮影された糞尿のようなヘドロがたまる赤田川

下写真は2016年(平成28年)5月1日に撮影された浄瑠璃寺奥之院瑠璃不動三尊像のすぐ前を流れる赤田川です。写真手前を流れるのが赤田川で、川面に泡が浮かび、川底がベージュ色のバクテリアに覆われていることがわかります。奥の白丸で示したあたりには、明治か大正ごろに造立された丸彫りの不動三尊像が見えます。写真では見えませんが、さらにその奥にある小さな滝の中段に、鎌倉時代の線彫りの瑠璃不動磨崖仏があります。

2016年(平成28年)5月1日に撮影された浄瑠璃寺奥之院前を流れる赤田川

残念ながら、浄瑠璃寺奥之院がある谷は、2023年(令和5年)現在でも下水のような臭いが充満していることが多く、季節を問わず、あまりの臭いに気分が悪くなることがあります。下写真は2015年(平成27年)の大晦日に撮影された、浄瑠璃寺奥之院前の赤田川です。雨の後でもないのに川の水が茶色く濁り、ちょっとした落差でできた泡がなかなか消えないようすが見て取れます。この日の臭いはとりわけ酷く、谷の上にあるバス道にまで下水のような臭いが漂っていました。この写真を撮られた方は観光で来ていたそうですが、あまりに臭いが酷かったので、年が明けてから木津川市役所に苦情を入れてくださったとのことです。その後、当会に写真を提供してくださいました。

2015年(平成27年)大晦日の浄瑠璃寺奥之院前を流れる赤田川

下写真は2017年(平成29年)3月19日に撮影された浄瑠璃寺奥之院の少し上流にある砂防ダムの堰堤の上から、砂防ダムの下流側を撮影したものです。泡が吹き溜まって土のように固まって見えます。

2017年(平成29年)3月19日に撮影された浄瑠璃寺奥之院上流にある砂防ダム

下動画は浄瑠璃寺奥之院から砂防ダム付近で撮影した赤田川の状況です。2016年(平成28年)5月から2019年(令和元年)10月までの動画を一つにまとめました。2016年(平成28年)から2017年(平成29年)ごろ、浄瑠璃寺奥之院の少し下流にある砂防ダムでは、初夏から秋にかけ、水底からメタンと見られる気泡があがり、水面が泡だらけとなっていました。臭いも酷く、砂防ダムでできた池のそばにいると、気分が悪くなるほどでした。

このように、浄瑠璃寺奥之院下流にある砂防ダムは、水面近くまでヘドロで埋まっており、少なくとも2015年(平成27年)から2017年(平成29年)ごろは、夏には無数の泡に覆われた茶色く濁った水がゆっくりと流れ、ところどころに真っ黒なヘドロが浮かぶような状態となっていました。下写真は2017年(平成29年)7月8日に撮影された、浄瑠璃寺奥之院の下流にある砂防ダムです。

2017年(平成29年)7月8日に撮影された浄瑠璃寺奥之院下流にある砂防ダム

しかしその後、木津川市が水質改善のため奈良県などへの働きかけを強めたことで、2018年(平成30年)の夏には、砂防ダムの水面が水底から湧き上がるメタンの泡で覆われることはほぼなくなりました。木津川市まち美化推進課の担当者によると、大雨で大量の土砂が砂防ダムに流れ込み、水底のヘドロに蓋をする形となったことも、その要因として考えられるとのことです。

下写真は2022年(令和4年)8月27日に撮影された浄瑠璃寺奥之院の下流にある砂防ダムの様子です。既に砂防ダムがほぼ埋まっており満沙が近づいていることがわかります。メタンの湧き上がりはほとんどなく、2017年(平成29年)ごろに撮影された写真と見比べると、いくぶん水質が改善していることは確かです。とはいえ山あいの谷にある砂防ダムとは思えない、酷いありさまであることには変わりありません。

2022年(令和4年)8月27日に撮影された浄瑠璃寺奥之院下流にある砂防ダム

浄瑠璃寺奥之院の下流にある砂防ダムのすぐ下には、農業用水を取水するための堰があるのですが、下写真はその堰で滞留している赤田川の水です。この写真も同じく2022年(令和4年)8月27日に撮影されました。

2022年(令和4年)8月27日に撮影された浄瑠璃寺奥之院下流にある砂防ダム下の取水堰

冒頭でも述べましたが、こうした水質汚濁の原因として、木津川市議会で長年議論されている場所のひとつが、奈良ブランド豚「郷Pork」を生産する村田養豚場(村田畜産/村田商店)です。なにより村田養豚場より上流の赤田川では水の濁りも臭いもほとんどない一方、村田養豚場より下流の赤田川に限って川の水が泡立ち、下水のような臭いが酷いという事実があります。2016年(平成28年)から2017年(平成29年)にかけては、特に日暮れごろ臭くなると言われていました。谷の上の尾根道まで酷い臭いが漂ってくることもしばしばで、浄瑠璃寺周辺地域などでは、外にいる人が少なくなる時間を見計らって、夜に汚水が流されているのではと噂されていました。

ただ、村田養豚場よりさらに上流の奈良市法用町に、不法に造られた産廃処分場があり、大雨が降ったときなどに、そこから染み出した未処理の汚水が流れ出すこともあるようです。そのため、木津川市も奈良市も、赤田川の汚れが酷いことを認めつつ、原因を特定できないとしてきました。

2017年(平成29年)に行われた木津川市による詳細な赤田川水質調査

しかし2016年(平成28年)12月、木津川市による赤田川の水質調査で、それまでにない著しい水質汚濁が検知されました。下流の高田でも、BODが30mg/L、CODが26mg/Lと、作物への影響が心配されるほどの異常な値が検知されたのです。これを受け木津川市は、水質検査の頻度を年4回から月1回以上に増やしましたが、その後も異常な数値が検知され続けたため、2017年(平成29年)4月10日、木津川市と京都府山城南保健所は、水質検査を依頼しているエヌエス環境株式会社と、赤田川の水質汚濁について協議を行いました。このときエヌエス環境株式会社は、提案書において「特に糞便生大腸菌が10,000個/mlを超過した状態は、し尿レベルの汚染であり、他の病原菌に汚染が心配される。一般河川、また農業用水として衛生的に心配」と指摘しています。

平成29年4月11日-赤田川の水質問題について

その四日後の2017年(平成29年)4月14日には、木津川市が京都府山城南保健所とともに、京都府山城南農業改良普及センターを訪れ助言を求めています。京都府山城南農業改良普及センターは「現在の水質が続けば、水稲・ナス等への生育への影響が懸念される」との厳しい見解を示し、この日も木津川市に事態の深刻さを印象づける結果となりました。

平成29年4月14日-赤田川の水質問題について

事態が切迫していると考えた木津川市は、間をおかず、木津川市長自らが京都府に協力を要請しています。2017年(平成29年)4月24日に木津川市長が市町村会議で京都府庁を訪れた際、木津川市長が京都府環境部長に手渡した木津川市市民部作成の資料には、「府県境を跨ぐ公害」と書かれおり、その文面からは赤田川の水質に対する木津川市の強い危機感がうかがえます。

平成29年4月24日-市長・府庁訪問用資料1

平成29年4月24日-市長・府庁訪問用資料2

そして2017年(平成29年)5月30日、木津川市は、調査業務を委託したエヌエス環境株式会社、京都府環境管理課、山城南保健所、奈良市保健所に加え、地元代表者ともに、赤田川水質汚濁状況調査を実施しました。この調査では、浄瑠璃寺奥之院の上流にある砂防ダムから上流へ向け踏査が行われ、100mごとに底質のサンプルを採取しつつ、この区間に沢や支流の流入がないかについても確認されました。踏査の報告書では、村田養豚場を境に河川の状況が一変する様子が報告されています。

平成29年5月30日-赤田川水質汚濁状況調査の実施について/養豚場直下では、川底に大量の食品残渣が見られ、川底の泥から強烈な悪臭が発生していた。赤田川本流への養豚場からの排水路を過ぎると、川底の食品残渣が見られなくなり、底質が黒く変色していることもなくなった。養豚場を過ぎると、水の濁りはましになり魚影も見られた。

2017年(平成29年)5月30日に行われた赤田川水質状況調査の概要は、ほどなくして下流地域にも伝わり、2017年(平成29年)6月23日には、京都やましろJAから、赤田川の水質改善を求める要望書が、木津川市長に直接手渡されました。

京都やましろJAからの要望書

また2017年(平成29年)7月21日、西小・大門・高田・観音寺・大野の流域五地区から合同で、赤田川の水質改善要望書が、木津川市長に、やはり手渡しする形で提出されています。


赤田川下流地域からの要望書

こうした下流農家の強い懸念を背景に、2017年(平成29年)6月15日から同年9月26日にかけ、木津川市では、汚濁源からの流入が、恒常的・定期的ではない可能性を考慮し、水質の連続モニタリング調査を行っています。これは赤田川の浄瑠璃寺奥之院付近において、河川水の電気伝導度(EC)を15分間隔で連続モニタリングするもので、値の変化により汚濁物質流入の頻度と時間帯を把握することが期待されました。ECは水中の電解質濃度を一括して推定する指標です。

このEC連続モニタリング調査の中で、高頻度で夜間にピークが現れることが観察されたため、木津川市は、2017年(平成29年)7月19日の19時30分から、ECメーターが設置された浄瑠璃寺奥之院前の赤田川で、一時間ごとに採水して水質を調査しています。その結果、19時30分に、COD=170mg/L、BOD=830mg/L(環境基準の100倍以上)、全窒素=35mg/L、全りん=2.0mg/L、アンモニア性窒素=23mg/Lと著しい有機汚濁が検知され、その後急速にそれらの数値が低下する様子が確認されました。


こうした詳細な調査と分析を経て、2017年(平成29年)11月には、赤田川水質汚濁状況調査報告書の内容が固まり、2017年(平成29年)11月7日、木津川市長が奈良県農林部を訪れ、赤田側の水質汚濁改善への協力を要請しています。


平成29年11月7日-赤田川水質汚濁改善に向けた要請-平成15年頃から水質汚濁が進んできており、流域市民から苦情や相談を受けるに至っている。昨年末頃から水質汚濁が顕著になってきており、農家のみなさんは、大変困っている。何とか助けて欲しい。ブランド肉を作る事業者も応援したいし、事業者を同行しようなど一切、思っていない。随行した職員は、概況として以下のとおり報告している。市長は始終、水質改善に向けたお願いをされていた。水質を改善したいこと、事業者を適切に指導してほしいこと、[不開示]が主な依頼であった。

上報告書を見ると、このとき木津川市長自ら、奈良県農林部長に、切々とお願いをしていたことがわかります。木津川市長の「ブランド肉を生産する事業者」という言葉から、木津川市長の依頼が村田養豚場(村田畜産/村田商店)を念頭に置いたものであることは明らかでしょう。なお木津川市による赤田川水質汚濁状況調査報告書は、赤田川水質汚濁の原因について、次のように結論づけています。

連続モニタリング調査の結果から、赤田川の水質汚濁については、「奥の院」における水質を著しく悪化させるような、高濃度かつ大量の有機汚濁成分が、人為的に、高い頻度で主に夜間に排出され、河川に流入することによって生じている可能性が高い。


4月17日の水質調査では、「奥の院」で従来見られなかった高濃度の有機汚濁が確認されたが、これは、有機汚濁成分の流入時の水質である可能性が高い。

本年度の赤田川の水質は、参考資料2のとおりだが、河川への汚濁成分の流入が短時間に集中していると考えられる今回のようなケースでは、通常の水質検査では、汚濁状況を十分把握することが困難である。

一方、底質は、河川水の影響を蓄積するため、一時的な汚濁成分の流入についても、一定捕捉することができる。汚濁源の確認調査において、底質に大きな差異が認められたのは底質⑤と底質⑥の間であり、底質⑤から下流側で底質の有機物汚濁を示す化学的酸素要求量(COD)が高い状況であった。

また、養豚場周辺の流入水に強い有機物汚濁が認められたことから、府県境に位置する養豚場付近で、高濃度かつ大量の有機汚濁成分が排出されて、赤田川の水質汚濁を引き起こしていると考えられる。

なお、事業所敷地内の状況が不明であることから、付近の事業所の汚水処理等の調査が必要である。

平成29年11月 赤田川水質汚濁状況調査報告書

この結論を受け、2017年(平成29年)11月14日には、木津川市長から奈良県知事に赤田川の水質改善に配慮を願う要請書が送られました。

平成29年11月14日-赤田川水質汚濁状況調査の結果について(奈良県知事宛)

ちなみに、当初木津川市はこの要請書を京都府知事と連名で発出することを希望していました。このことは木津川市の問題解決にかける強い意志を感じさせます。

平成29年7月14日-今後の赤田川の水質汚濁への対応に係る木津川市の意向について

また、検討中の文案では「奈良市と木津川市の境界付近で河川の状況が大きく悪化していることが確認され、その付近にある事業所が上流側の汚濁源の一つとなっている可能性が示唆されています」としており、最終案よりも踏み込んだ表現となっていました。


要請書案(奈良県知事宛)

次いで2017年(平成29年)11月22日には、木津川市長が奈良市長を訪問して、奈良県知事宛と同じ内容の要請書を手渡しています。


平成29年11月22日-赤田川水質汚濁状況調査の結果について(奈良市長宛)

この要請文においても、途中の文案は最終案と少し異なっており、「調査・対応をされた結果につきましては、木津川市及び京都府に提供いただけますようお願いいたします」という、具体的な要請が含まれていました。奈良市側から十分な情報が入ってこないことに対する、木津川市の苛立ちが滲み出た文面と言えそうです。

要請書案(奈良市長宛)

村田養豚場の排水設備改修

赤田川水質汚濁の原因が村田養豚場だと特定されたわけではないものの、こうした木津川市の詳細な調査と粘り強い働きかけにより、2018年(平成30年)2月ごろ、ついに村田養豚場が排水設備の改修を行う意向を示します。しかしFACT.1でくわしく見たように、排水設備の改修と引き換えに水路工事や市有土地境界確定図の修正を求められるなど、その後も紆余曲折があり、新しい排水設備が実際に完成したのは2019年(令和元年)の10月ごろでした。それより前の2019年(令和元年)の6月ごろには、新しい排水設備はほぼ完成しており、稼働を始めてもいましたが、2019年(令和元年)の10月ごろに縦穴(下写真①)に空気を送り込むポンプが設置され、それをもって完成としたようです。

新しい排水設備

なお、このとき村田養豚場が新しく設置した排水設備は、上写真の通り、外部から観察する限り、概ね次のような機能があるとみられます。

  1. まず豚舎北西端の地下に集められた汚水が゙縦穴①に注ぎこまれます。この写真は2019年(令和元年)6月に撮影されたためまだ設置されていませんが、最終的には縦穴①に空気を送り込むパイプが取り付けられ曝気のようなことが行われています。ただ縦穴の容量が小さいため、これは曝気というより縦穴の底に沈殿した固形物を攪拌することが目的の仕組みかもしれません。
  2. 次に縦穴①からポンプで汚水が汲み上げられ、二台の振動篩(ふるい)②を通ります。この時、汚水中の固形分が コンクリート台の外側へふるい落とされます。
  3. 次に汚水は浅い槽③を流れ、槽に渡された板(↓印)によって、表層の油分や浮遊物がせき止められ、下層の液体成分のみが次の貯留槽④へと流れます。
  4. 貯留槽④に溜められた汚水は、豚舎北西端にある、地下の汚水管に繋がる縦穴⑤(見えない位置にある)へ戻されます。

新しい排水設備拡大写真

このように①から⑤を何度も循環させることで、汚水中の固形分を取り除くのが、この排水設備の主な機能と思われます。これは固液分離装置あるいは尿分離装置と言われるもので、いわゆる浄化槽らしきものは見当たらず、村田養豚場の規模に対応できる十分な浄化機能は備わっていないように見えます。

ところで、西側豚舎から突き出ている柵のついた通路Ⓐは、豚の搬出入口となっています。したがって、豚を搬出入する際には、ここに豚の運搬トラックが後ろづけされることになります。しかしながら、運搬トラックが停車する位置Ⓑでは、コンクリート台の外へふるい落とされた固形分から液体成分が滲み出しコンクリート敷の上に広がっていることが多く、村田養豚場の新しい排水設備は、運搬トラックが豚の排泄物と容易に接触し得る構造と配置となっているため、病原体を拡散させるリスクが高いと言えます。この排水設備の改修が進められていたころ、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が声高に防疫を振りかざし、公道の封鎖を求めていたことを考えると、村田養豚場(村田畜産/村田商店)がやっていることは、ちぐはぐに思えます。

しかも新しい排水設備は、排水設備の変遷をまとめた上動画からわかるように、完成後にもしばしば配管が変更されており、安定して稼働しているようには思われません。また前述の通り、この排水設備は、外部から観察する限り、固体と液体を分離する機能しかないように見えます。これで本当に十分な浄化機能があるのか疑問に思いますが、実は木津川市も、新しい排水設備の詳細を未だほとんど把握できていないのです。それというのも、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が、木津川市の立ち入りを強硬に拒絶している上、奈良県や奈良市に加え京都府に対しても、木津川市に情報を提供しないよう求めているからです。

2018年(平成30年)3月29日、村田養豚場(村田畜産/村田商店)の強い要求で、奈良県、奈良市、京都府、木津川市、村田養豚場(村田畜産/村田商店)による合同会議が開かれましたが、その席上、村田養豚場(村田畜産/村田商店)は次のように発言しています。

  • 排水基準の50㎥/日等の知識も持っていないのではないか。
  • 排水が法規制にかからず、産業廃棄物の問題もないのであれば、何が問題なのか。奈良県も奈良市も指導できないのではないのか。
  • 村田養豚場は、基準を満たしており、BOD、CODは基準に含まれていない。河川の水の色で汚濁していると言えるのか。塩水を流してやろうか。
  • 苦情を言う市民や、議会の言い訳としてお願いをするのは勝手だが、市も県も指導できず、効果はないのではないか。
  • なぜ木津川市は、養豚場内に立ち入りができないと思うか。
  • 行政は、法律・条例に基づいて行動すべきで、木津川市の職員には勉強しようとする努力が見られないからである。民間より知識や経験が欠けている。京都府は、よく勉強しているし、時と場合によっては対処法が違うと理解できる人たちだから入ってもらっている。
  • 木津川市は、来年度も水質調査を継続し、その結果を奈良県・奈良市に伝えていくと言っているが、おかしくないか。奈良県はどう思う。
  • 村田養豚場としては、会社としてやるべきことはやっていくつもりで、奈良県や京都府に協力も求めていく。しかし、その内容については、一切、木津川市に伝えないよう言っている。知りたかったら木津川市も変わってほしい。

平成30年4月16日 赤田川の水質汚濁に係る合同会議について

「排水基準の50㎥/日等の知識」とは、水質汚濁防止法に定められた一律排水基準が、有害物質以外の項目については、一日当たりの平均的な排出水の量が50㎥以上である工場または事業場からの排出水についてのみ適用されることを指しています。ただし、奈良県においては下記のとおり、条例によって、より厳しい基準(裾下げ・上乗せ規制)が規定されています。

この表に規定する排水基準は、一日当たりの平均的な排出水の量が五十立方メートル以上である特定事業場に係る排出水について適用する。ただし、昭和四十七年一月一日以後に設置された特定事業場で、次のいずれかに該当するものにあっては、一日当たりの平均的な排出水の量が十立方メートル以上である特定事業場に係る排出水について適用する。
(1) 政令別表第一第一号の二イに規定する特定施設(豚(生後五月未満のものを除く。)百頭以上の飼養に係るものに限る。)、同表第十一号、第二十二号、第二十四号から第二十八号まで、第三十二号、第三十三号、第四十三号、第四十六号、第四十七号、第四十九号、第五十号若しくは第五十三号に規定する特定施設、同表第五十五号に規定する特定施設(混練機の混練容量が〇・六立方メートル以上のものに限る。)又は同表第五十七号、第六十二号ニ、第六十三号ニ、第六十五号若しくは第六十六号に規定する特定施設を設置する特定事業場であること。

水質汚濁防止法第三条第三項の規定による排水基準を定める条例

村田養豚場の現在の排水設備は、2006年(平成18年)以降に取得された敷地に設置されていますが、奈良市保健所は、村田養豚場は1972年(昭和47年)1月1日より前から存在しているとして、一日当たりの平均的な排出水の量が50㎥以上でなければ、有害物質以外の項目に係る排水基準は適用されないとしています。

また村田養豚場では谷川の水をタンクに集め、これを様々な用途に使用しています。加えて市道上で行われている作業で使用された水は市道脇の側溝へ流れ、そのまま赤田川に流れこんでいるとみられます。そのため、村田養豚場の排水量を正確に把握することは極めて困難で、水道使用量や豚の尿量などから計算した場合、村田養豚場における一日当たりの平均的な排出水の量は、おそらく10㎥を越えるかどうかという範囲に収まっているものと考えられます。

したがって、水質汚濁防止法に定められた、有害物質以外の項目に係る排水基準は、村田養豚場における1日当たりの平均的な排水量が、規制対象とならない量であることから、村田養豚場の排水には適用されないのです。仮に、村田養豚場の排水が原因で、赤田川の河川水自体が排水基準を越えるような状態となっているとしても、それでも水質汚濁防止法では、BODやCODの排水基準が村田養豚場の排水に適用されることはありません。

以上をふまえた上で、前述の合同会議において、村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、排水が法規制にかかる可能性がない以上、奈良県も奈良市も村田養豚場を指導することはできないのだから、木津川市が赤田川の水質調査を行って、奈良県や奈良市に結果を報告することに意味はなく、木津川市が水質調査を継続するのはおかしいと主張していたわけです。

村田養豚場(村田畜産/村田商店)は二次処理設備を設置し、排水設備の詳細を木津川市に知らせるべき

ところで、近年、村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、オリジナルブランドの「郷Pork(郷ポーク)」を、人間の食べ残しを食べさせるエコな豚、奈良の自然豊かなむらざとで育んだブランド豚として盛んに宣伝しています。そして2016年(平成28年)5月には、西日本ハンバーガー協会が企画した「奈良バーガー」の必須材料にも選ばれました

郷Porkパンフレット表面

郷Porkパンフレット裏面

これまで見てきたように、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が木津川市による立ち入りも木津川市への情報提供も拒んでいるため、木津川市は村田養豚場の排水設備についてほとんど何も把握していません。その結果、木津川市による下流地域への説明会でも、村田養豚場の排水設備に関しては具体的な説明が一切なく、したがって木津川市民には何も情報が伝えられていないので実際のところは不明なのですが、先ほどから指摘しているとおり、外部から観察する限りは、排水設備の中に糞と尿を分離する装置はあるものの、浄化槽は見あたりません。しかしながら、はたして浄化槽も設置せずに、上記のうたい文句にふさわしい環境対策は可能なのでしょうか。ちなみに下記は、畜産の情報-調査・報告-2003年10月 月報国内編「養豚に切っても切れない汚水処理」からの引用です。

放流できる処理水を得るためには浄化槽(活性汚泥処理施設)が必要である。養豚ではふんと尿を分離し、ふんはたい肥化、尿は浄化槽がメジャーな方法となっているのである。

この点に関しては、2020年(令和2年)3月26日に開かれた「赤田川の水質汚濁に係る連絡調整会議」の席上、京都府畜産課が村田養豚場が改修した排水設備について聞かれ、「処理は二段階方式で、そのうち一次処理までを技術支援した。その水は二次処理することになっているが関わっていないので不明。奈良県の指導によるところ」と答えています(下線は当会による)。この会議における京都府畜産課の一連の発言は、村田養豚場には本来あるべき二次処理施設が未だ存在しておらず、汚水が「適正に処理」されているとは言い難い状態が続いている、ということを示唆するものです。

令和2年4月20日-赤田川の水質汚濁に係る連絡調整会議(令和2年3月26日)について-05

ちなみに、京都府畜産課がいう二次処理設備は、京都府畜産センターが設計した回分槽という浄化槽の一種と思われます。というのも、村田養豚場(村田畜産/村田商店)が排水設備の改修を始める前の、2018年(平成30年)7月9日、奈良県畜産課長と奈良県家畜保健衛生所長が、村田養豚場の汚水処理に関する相談のため、京都府畜産センターを訪れているのですが、そのとき京都府畜産センターが奈良県畜産課長らに紹介したのが回分槽だからです。京都府の報告書によると、このとき京都府畜産センターは「仮に回分槽を設置するのであれば、60㎥の大きさのものが必要(50㎥程度で250〜300万円程度、100㎥でも500万円程度)」と説明したようです。したがって京都府畜産課のいう「二次処理」には、回分式活性汚泥法による浄化槽、すなわち回分槽が想定されていると考えられます。つまり京都府畜産課が村田養豚場(村田畜産/村田商店)への技術支援にあたって前提とした「二段階方式」とは、先ほど引用した論考にある「メジャーな方法」そのものだったわけです。村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、京都府畜産課のいう二次処理設備をぜひとも設置するべきです。

平成30年7月9日-畜産水処理施設視察・打合せについて-01

平成30年7月9日-畜産水処理施設視察・打合せについて-02

なお砂防ダムより下流の赤田川では、2017年(平成29年)ごろと異なり、2018年(平成30年)4月以降は、環境基準値を大きく超える水質汚濁がほとんど検知されなくなっています。下図は赤田川の各調査地点におけるBOD値の変化を表したグラフです。太線は環境基準の8mg/Lと排水基準の160mg/Lを示しています。

水質調査結果グラフ

一方で、赤田川の奥之院付近では、BODの排水基準(160mg/L)を、河川水が越えてしまうような、異常な水質汚濁が度々検知されています。しかし2018年(平成30年)から2019年(令和元年)の前半にかけては、浄瑠璃寺奥之院付近でも、概ね、BODが環境基準値(8mg/L)前後か、せいぜい環境基準値の2倍程度に収まっていました。残念ながらそれでも「非常に汚い」と言ってよい水質であることには変わりありませんでしたが、そのころ奥之院や砂防ダムを実際に訪れたときには、2017年(平成29年)ごろに比べ、川に溜まったヘドロやぬめりが減り、泡立ちも少なく、見た目にも水質が改善しているように感じられました。

しかし奇妙なことに、このころ村田養豚場の排水設備はまだ改修されておらず、それどころか国有水路工事にともなって旧排水設備が撤去されており、汚水が素掘りの穴に溜まっているような状態でした。ただその代わりに、豚舎から出た汚泥が頻繁に運び出され、堆肥舎で処分されたり赤田川北側の土地に大量に投棄されたりするようになっていました。そのことが赤田川の水質改善に大きく寄与していた可能性はあります。

村田養豚場の排水設備の変遷-06

村田養豚場の排水設備の変遷-07

続く汚泥・食品残渣等の投棄-05

一方、排水設備の改修がほぼ完了していたはずの2019年(令和元年)9月以降になると、浄瑠璃寺奥之院付近では、環境基準値(8mg/L)を大きく超え、京都市の下水処理場に送られる下水(82mg/L)よりも汚いレベルの水質汚濁が、再び何度も検知されるようになりました(2019年9月=77mg/L、2019年11月=66mg/L、2019年12月=170mg/L、2021年4月=99mg/L、2021年8月=210mg/L、2021年11月=210mg/L、2021年12月=290mg/L、2022年1月=300mg/L、2023年2月=130mg/L、2023年3月=89mg/L、2023年7月=71mg/L、2023年9月=67mg/L、2023年10月=190mg/L、2023年10月〈砂防ダム〉=250mg/L)。そのため2022年ごろまでには、浄瑠璃寺奥之院付近の赤田川は、川底一面にベージュ色のバクテリアのようなものがこびりつく状態に戻ってしまいました。今後、浄瑠璃寺奥之院の下流にある砂防ダムが満砂となった場合、浄瑠璃寺奥之院付近のこうした汚濁が砂防ダムで沈殿することなく、そのまま下流に流れくだる恐れがあります。赤田川の水質については今後も注視し続ける必要があります。

浄瑠璃寺奥之院付近の赤田川と京都市下水処理場の流入下水の水質比較。時に赤田川の河川水が、京都市の下水処理場に送り込まれる汚水(流入下水)よりも、ずっと汚くなっていることを示している。

繰り返しになりますが、先にも述べたように、村田養豚場の新しい排水処理がどのようなもので、どの程度赤田川の水質改善に寄与しているのかは、下流地域に全く伝えられていません。これでは今後、より水質が改善していくのか、それとも以前浄化槽が設置された時と同様、しばらくすると元の木阿弥に戻ってしまうのか、下流地域の農業者や、赤田川の水質汚濁を懸念する人々が、心配に思うのは当然のことと言えます。村田養豚場(村田畜産/村田商店)は、木津川市による立ち入り調査を快く受け入れるとともに、自らすすんで、排水設備に関する詳細な情報を木津川市に伝えるべきです。そうすれば、木津川市も、下流地域に対して、赤田川の水質改善見通しに関し具体的な説明ができるようになり、もし新しい排水設備が赤田川の水質改善に十分なものであるなら、それは下流地域の理解と安心につながることでしょう。

ちなみに、奈良県畜産課は、2020年(令和2年)4月に、赤田川の現状について次のような見解を述べています。

木津川市
「下流域住民は水の現状を見て、『本当にこの水で基準内か?』と不信を持っている。」
奈良県
「それは仕方がないのではないか。他の事業場でも同じである。」

令和2年4月14日 村田養豚場の防護柵に係る奈良県との協議に関する報告書

奈良県畜産課によれば、少なくとも奈良県下の養豚場は、どこも村田養豚場と同じような状況にあるのだそうです。