控訴審判決

2022年11月25日言渡

※本裁判の概要については、裁判編の冒頭をご覧ください。また控訴審判決が参照している第一審判決についてはこちらをご覧ください。

令和4年11月25日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和4年(ネ)第1465号 損害賠償等請求控訴事件(原審・奈良地方裁判所令和元年(ワ)第338号)
口頭弁論終結日 令和4年9月14日

判決

控訴人(一審被告) 遠藤 千尋
同訴訟代理人弁護士

被控訴人(一審原告) 株式会社村田商店
同代表者代表取締役 〈村田商店代表甲〉
同訴訟代理人弁護士

主文

  1. 原判決を次のとおり変更する。
  2. 控訴人は、被控訴人に対し、33万円及びこれに対する令和元年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
  4. 控訴費用は、第1、2審を通じ、これを6分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
  5. この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

  1. 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
  2. 上記部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
  3. 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。

1 事案の要旨

(1) 本件は、奈良市東鳴川町において養豚業を営み「郷Pork(郷ポーク)」という名称で販売されている豚肉を生産している被控訴人が、インターネット上に 「奈良ブランド豚肉『郷Pork(郷ポーク)』について知るべきこと」と題する記事(本件記事)を掲載している控訴人に対し、同記事によって被控訴人の名誉が毀損されたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件記事が掲載された平成28年6月から原審における訴状送達の日の翌日である令和元年8月10日までに被控訴人が被った無形の損害100万円及び弁護士費用相当額10万円の合計110万円の賠償を求めるとともに(附帯請求は、起算日を令和元年8月10日とする平成29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金請求である。)、民法723条に基づく名誉回復措置として、本件記事の削除を求めている事案である。

(2) 原審は、本件記事の一部が被控訴人の名誉を毀損し、不法行為を構成するとして、被控訴人の金銭請求の一部と本件記事の削除請求の一部をそれぞれ認容したところ、これを不服とする控訴人が控訴を提起した。

(3) なお、原判決は、被控訴人の本件記事の削除請求を、主位的請求として本件記事全部の削除を求める請求、予備的請求として本件記事の一部(原判決別紙記事目録2記載部分)の削除を求める請求として整理しているが、予備的請求が削除対象とする記事は主位的請求が削除対象とする記事の一部にすぎないから、両請求は法的には主位的、予備的の関係になく、予備的請求は、被控訴人が本件記事全部の削除が認められない場合にも、特に削除を求める記事を個別に特定して主張しているにすぎないと解する。

2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠又は弁論の全趣旨によって認められる事実)

次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1(原判決2頁26行目から7頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決3頁4行目から同頁5行目にかけての「奈良県のブランド豚「郷ポーク」を生産している。」を「「郷ポーク」という名称で販売されている豚肉を生産している。「郷ポーク」は、奈良市によって、いわゆるふるさと納税の返礼品に選定されることもあった(乙4)。」を加える。

(2) 原判決3頁14行目の冒頭から同19行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 控訴人は、平成28年6月、「URL:https://goporkfacts.com/index.html」のウェブサイトに 「奈良ブランド豚肉『郷Pork(郷ポーク)』について知るべきこと」と題する記事(本件記事)を掲載し、令和元年9月、その記事の記載内容の主要部分を維持しながら一部を変更し(原判決別紙記事目録2記載部分を含んでいる。)、本件控訴提起後、その記事の記載内容を全面改訂した(以下、全面改訂後の本件記事を、それ以前の本件記事と区別するため「本件新記事」という。)。(甲222乙139186)」

(3) 原判決4頁10行目の「本件訴訟」を「原審」と改める。

(4) 原判決4頁11行目の「掲載している」を「掲載していた」と改める。

3 争点

原判決の「事実及び理由」第2の2(原判決7頁6行目から同9行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

4 争点に対する当事者の主張

後記のとおり争点(1)に対する当審における控訴人の補足主張を加え、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第2の3(原判決7頁11行目から15頁23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決12頁7行目の「また、」から同9行目の「本件境界は未確定である。」までを削る。

(2) 原判決14頁20行目の「これによる無形の損害」を「被控訴人が本件記事の掲載時である平成28年6月から令和元年8月10日までに被った無形の損害」と改める。

5 争点(1)に対する当審における控訴人の補足主張

(1) FACT1について

ア 原審は、本件記事のFACT1において、〈村田商店代表乙の父〉が本件土地1を無断掘削し、不法占拠した事実が摘示されており、同事実について被控訴人に対する名誉毀損が成立するとするが、本件記事は、本件土地1に対する工事のみを取り出して不法と評価しているのではなく、〈村田商店代表乙の父〉の掘削工事が、本件土地1本件土地2及び本件土地3(以下「本件各土地」と総称する。)に対する一体の工事として不法と評価したものであり、本件各土地に対す る掘削工事として評価するならば、それを不法と評価することは相当である。また、本件1土地に対する掘削工事についてだけみても、「無断」あるいは「突如」と評価することは可能であり、本件記事のFACT1について被控訴人に対する名誉毀損は成立しないというべきである。

イ また、原審は、控訴人が契約の一方当事者の口頭での説明を軽々に信用しており、被控訴人が訴訟による紛争解決後においても不法占有を続けていると信じるにつき相当の理由があったとはいえないとするが、控訴人は、一方契約当事者の口頭での説明だけを信用したのではなく、被控訴人が公道上に設置した「立入禁止」の看板の存在、奈良県畜産課が虚偽の説明を行ってまで被控訴人を庇っている事実、控訴人が多数の犬を放し飼いにしたり、公道や他人の土地を占有したりするおそれがあったことなどを考慮して、本件記事を掲載しているものであり、仮に本件記事の内容が真実であることが認められないとしても、真実であると信じたことについては相当な理由があるというべきである。

ウ さらに、原審は、本件記事において〈村田商店代表乙の父〉による産業廃棄物の違法投棄の事実が指摘されており、同事実の指摘が被控訴人に対する名誉毀損に当たるとするが、本件記事に「〈村田商店代表乙の父〉による産業廃棄物の違法投棄の事実」を指摘する部分はなく、この点について名誉毀損が成立するとした原判決は誤りである。

(2) FACT2について

原審は、本件記事のFACT2のうち、被控訴人の代表者や従業員が通行人を恫喝したり、立ち入りを制限する看板を設置したりして公道(里道)を不法占拠しているとの事実を摘示する部分について名誉毀損の不法行為が成立するとするが、〈村田商店代表乙の父〉が自分の意に沿わない人間に対して激高しやすいことは、令和元年12月7日の〈加茂町B〉に対する言動や、令和元年8月16日の旅行者に対する言動からも明らかであり、これらの事実は、〈村田商店代表乙の父〉をはじめとする被控訴人の関係者が通行人を恫喝し、公道(里道)の通行を妨げていた事実を推認させるものである。

(3) FACT3について

原審は、本件記事のFACT3のうち、被控訴人による敷地間の公道(里道)の不法占拠の事実を摘示した部分について、名誉毀損の不法行為が成立するとするが、被控訴人の公道の使用態様は、フォークリフトなどの重機を用いて餌の混ぜ合わせ作業を行ったり、コンクリートを作るためにショベルカーを用いて市道上に直接セメントや砂利などを積み上げて練り合わせたりするなど、道路交通法によって所轄警察署長の許可を受けなければならないと定められている「工事若しくは作業」に該当する態様で行われているというべきであるから、被控訴人が敷地間の公道を不法占拠していることは真実である。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件記事掲載(掲載開始の平成28年6月から令和元年8月10日まで)による名誉毀損の不法行為の成否)について

(1) 争点(1)に対する当裁判所の判断は、次のとおり補正し、下記(2)において争点(1)に対する当審における控訴人の補足主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第3の1(原判決15頁26行目から27頁5行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

ア 原判決19頁21行目の「その記載を信用することはできない」を「同境界確認書に記載された隣地境界線をもって、本件境界の位置を示すものと直ちに評価することはできない」と改める。

イ 原判決22頁1行目から同3行目までを削る。

ウ 原判決22頁4行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。

エ 原判決24頁10行目から同11行目にかけての「村田養豚場が通行人を恫喝したり、立入りを制限する看板を設置したりして公道(里道)を不法に占拠」を「村田養豚場が通行人を恫喝して公道(里道)を不法に占拠」と改める。

オ 原判決25頁3行目から同8行目までを削る。

カ 原判決25頁10行目の「成立する」を「成立しない」と改める。

(2) 当審における控訴人の補足主張について

ア FACT1について

(ア) 控訴人は、〈村田商店代表乙の父〉が本件各土地に対して掘削工事を行ったことを前提に原判決を論難するが、〈村田商店代表乙の父〉が本件土地1に対して掘削工事を行う権限を有していたこと及び〈村田商店代表乙の父〉が行った掘削工事が本件土地2に及んでいたか否かは明らかではないことは、上記(1)において原判決を引用して判示したとおりであるから、この点に関する控訴人の主張は、その前提を欠き、採用することができない。

(イ) また、控訴人が本件記事のFACT1の事実について真実であると信じたことについて相当な理由として指摘する事項は、いずれも根拠がないか、あるいは、本件各土地の境界など依然として確定的に明らかにすることができない事項について、控訴人の認識が正しく、相手方の認識が誤っていることを前提とする一方的な解釈によるものであって、上記認定判断を左右するものではない。

(ウ) なお、本件記事に「〈村田商店代表乙の父〉による産業廃棄物の違法投棄の事実」を指摘する部分がないことは控訴人の主張するとおりであり、この点についての控訴人の主張には理由がある。

(エ)おって、控訴人は、原判決別紙記事目録1の2(FACT1)(7)ないし(10)の各記事及び同(11)の第2文記載の記事(〈村田商店代表乙の父〉による産業廃棄物の違法投棄の事実)については、被控訴人も予備的請求として削除を求めておらず、真実として認めていると解すべきであると主張するが、被控訴人は、これらの記事について主位的請求において削除を求めており、被控訴人がこれらの事実を真実と認めていないことは明らかである。

イ FACT2について

控訴人が上記第2の5(2)において主張する〈村田商店代表乙の父〉の言動は、その人物との関係性や口論に至った経緯、状況などに照らすと、仮にこれらの言動が認められるとしても、〈村田商店代表乙の父〉をはじめとする被控訴人の関係者などが通行人を恫喝して公道(里道)の通行を妨げている事実を推認させるものとは到底いえず、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。

ウ FACT3について

証拠(甲25ないし28)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は、現在、村田養豚場の敷地の間にある市道を占有使用するにつき、所轄警察署長から継続的に道路使用許可を得ていることが認められる。しかしながら、被控訴人が道路使用許可をいつから受けていたのかは必ずしも明らかでない上、証拠(甲25ないし28乙33ないし4760156ないし160)及び弁論の全趣旨によると、前記市道(里道)には、被控訴人が村田養豚場において飼育する多数の犬が係留されることなく放置されている常態にあったと認められるから、いずれにしても被控訴人による公道占拠の事実を不法占拠と指摘することについては、名誉毀損の不法行為は成立しないというべきであり、この点に関する控訴人の主張には理由がある。

2 争点(2)(被控訴人の損害額)について

(1) 上記1において被控訴人に対する不法行為が成立するとされた記事の内容(特に、別件訴訟の第一審判決(甲5)において〈村田商店代表乙の父〉が本件賃貸借契約に基づき本件土地1を掘削する権限を有していたものと認定され、この認定は同事件の控訴審においても否定されていないにもかかわらず、本件記事のFACT1において、〈村田商店代表乙の父〉が本件土地1を無断掘削しているとの虚偽と評すべき事実が摘示されていることは悪質であるといわなければならない。)に加えて、本件記事のうち被控訴人の名誉を毀損すると認められる記載の多くにあたかも被控訴人によって恒常的に犯罪的な行為が行われているかのような表現が用いられていることや、〈村田商店代表乙の父〉が不起訴処分となった土地掘削工事の件を起訴猶予となったと記載していることなど、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、本件記事の掲載時である平成28年6月から令和元年8月10日までに被控訴人が被った無形の損害は、30万円を下らないと認められる。

なお、上記1で判示したとおり、当審が名誉毀損の不法行為が成立すると判断した記事は、原審が認めた記事よりも少ないが、本件記事の存在によって豚肉の生産者である被控訴人が受けていた影響などに照らすと、当審が不法行為が成立すると認めた本件記事の存在によって被控訴人が前記期間に被った無形の損害は、やはり30万円を下らないというべきである。

(2) また、本件と相当因果関係にある損害として認めるべき弁護士費用は、3万円をもって相当と認める。

3 争点(3)(名誉回復のための適当な処分としての本件記事の削除の必要性及び範囲)について

前提事実(2)アのとおり、控訴人は、本件控訴を提起した後である令和4年9月、本件記事を全面改訂し、本件新記事(乙186)に差し替えている。

これは、控訴人が原審で本件記事の一部について削除を命じられたことから、控訴に当たり、削除を命じられた部分を除いた上で、本件記事を実質的に維持するために出た行為であると考えられる。

しかし、本件新記事は、原判決で一部削除を命じられた本件記事と題名及びURLを同じくするインターネット上に掲載された記事ではあるものの、その記載内容に鑑み、本件記事とは別の記事であって、その記載内容には当審が不法行為と認定する記載は含まれていないことはもとより、そもそも控訴人は、本件新記事を訴訟(削除請求)の対象としていない。

したがって、控訴人の削除請求の対象とする記事が存在しなくなっている以上、削除請求はすべて理由がないといわなければならない(なお、本件新記事も、本件記事同様、被控訴人に関連する種々雑多な事実を列挙して被控訴人を誹謗中傷する目的に出たものと考えられ、被控訴人の対応としては、本件新記事の記載内容を詳細に検討した上で、削除対象を再度特定して、その削除を求めるために附帯控訴して請求を追加することが考えられるが、被控訴人は、当審の第1回口頭弁論期日において、上記対応をしないことを明言している。)。

4 結論

以上によると、被控訴人の控訴人に対する請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、33万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和元年8月10日から平成29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の損害賠償請求及び名誉回復措置としての本件記事の削除請求は理由がないからいずれも棄却すべきところ、これと異なり、被控訴人の本件記事の削除請求を一部認容した原判決は一部失当であって、本件控訴の一部は理由がある。よって、原判決を主文第2項ないし第5項のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官 森崎 英二

裁判官 渡部 佳寿子

裁判官 岩井 一真