甲第5号証

平成23年9月30日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
本訴・平成21年(ワ)第1125号 損害賠償請求事件
反訴・平成22年(ワ)第390号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成23年7月8日

判決

本訴原告·反訴被告 〈東鳴川C〉(以下「原告」という。)
本訴被告·反訴原告 〈村田商店代表乙の父〉(以下「被告」という。)

主文

  1. 原告の本訴請求を棄却する。
  2. 原告,被告に対し,5031万2652円及びこれに対する平成22年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告の負担とする。
  4. この判決は,第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

  1. 本訴請求
    被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成14年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 反訴請求
    主文第2項と同旨

第2 事案の概要

1 本訴請求は,原告が,被告に対し,平成15年12月11日に死亡した原告の父である〈原告父〉(以下「〈原告父〉」という。)が所有し,原告がこれを相続した別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について,〈原告父〉は,平成14年3月1日,被告と賃貸借契約を締結していた(以下「本件契約」という。)ところ,被告は本件土地を掘削し,山土を他人に売却し,8149万1723円の利益を上げる一方,原告は同額の損害を被ったとして,不法行為又は債務不履行に基づき,うち3000万円及びこれに対する不法行為の日又は上記契約締結日である平成14年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,反訴請求は,被告が,原告に対し,原告は本訴提起により本件契約による義務を履行する意思がないことを明らかにしたとして,同契約を解除し、債務不履行に基づき,損害賠償として5031万2652円及びこれに対する反訴状送達の翌日である平成22年4月21日から上記同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 本訴請求について
(1) 請求の原因
  1. 原告は,〈原告父〉が平成15年12月11日死亡したので,相続により〈原告父〉が所有していた本件土地の所有者となった(争いがない)。
  2. 〈原告父〉と被告は,平成14年3月1日,本件土地について,〈原告父〉を賃貸人,被告を賃借人,賃貸借期間を同日から3か年・更新可,賃料年額12万円,賃料の支払は1年分を賃貸人の住所に持参払い,畜産業を営むことを目的とする土地賃貸借契約を締結した(本件契約,争いがない)。
  3. 被告は,賃貸したときから平成20年までの間,本件土地を掘削し,そこから生じる山土を他人に売却し,本件土地の現状は失われた。
  4. 掘削された山土は,3万9752.06mであり,山土1㎡の価格は2050円であるから,被告は,8149万1723円の利益を上げた。
  5. 被告の上記行為は,不動産侵奪罪に該当するものであり,本件契約にも違反しており,被告は,原告に与えた損害を弁償する責任がある。
  6. 原告は,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,上記8149万1723円のうち3000万円及び遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の反論
  1. 被告が本件土地を掘削したこと,そのため現状変更がされたことは認めるが,被告が本件土地を掘削することは,本件契約の内容に含まれる行為であり,〈原告父〉は了解していた。
  2. 被告は,本件土地から生じた山土を売却したことはない。
3 反訴請求について
(1) 請求の原因
  1. 原告は,虚偽の事実を告げて,本訴を提起した。
  2. 本件土地において被告が畜産業を営めるようにすることが,本件契約に基づく原告の基本的義務であるが,本訴提起により,原告にはその義務を履行する意思が全くないことが明らかになった。
  3. 被告は,平成22年4月14日付け内容証明郵便で,原告の債務不履行により,本件契約を解除することを通知し,同郵便は原告に翌15日に配達された。
  4. 被告は,本件契約により,次のとおり金員を支出した。
    (ア) 油圧ショベル2台のリース代金 2736万円
    (イ) 〈業者A〉に対する工事代金 1280万円
    (ウ) 油圧ショベル2台の燃料代金 990万2652円
    (エ) 牛舎新築工事の設計料等 25万円
    (オ) 合計 5031万2652円
(2) 原告の反論
  1. 被告が原告の許可なく勝手に伐採,掘削したことは,本件契約違反である。
  2. 被告は,原告の債務不履行を主張するが,原告に帰責事由はない。
4 争点
(1) 本訴請求について
  1. 被告が本件土地を掘削することは、〈業者C〉本件契約の内容に含まれていたか。
  2. 原告の損害額
(2) 反訴請求について
  1. 被告の本件契約の解除について,原告に帰責事由はあるか。
  2. 被告の損害額

第3 当裁判所の判断

1 証拠(甲1ないし3,4の1〜12,5ないし20,乙1,2の1〜6,3 と4の各1〜6,5ないし9,10の1〜6,11の1・2,12,13,1 4と15の各1・2,16ないし28,29の1・2,30ないし45,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

  1. 本件土地は,平成13年当時,地目・現況ともに山林で,平成21年度の土地課税台帳上の評価額は4万1652円である。
  2. 被告は,平成13年10月頃,〈知人〉から本件土地を借りてほしい旨の申出を受けた。
  3. 被告は,平成13年12月末頃, 〈原告父〉との間で,被告が畜産業(牛の放牧)を行うために本件土地を賃借すること,そのため,被告が本件土地の樹木を伐採し,斜面を掘削するなどして平に造成すること,賃料は年額12万円とすることを合意した。
  4. 〈原告父〉は,原告を同行の上,平成14年1月上旬,被告に対し,本件土地の境界を説明した。
  5. 被告は,平成14年1月10日,〈業者A〉に対し,上記〈原告父〉が説明した本件土地の範囲を指示した上,同工房との間で、工事費2000万2500円の見積で,本件土地の山林伐採及び土砂撤去工事(以下「本件工事」という。)請負契約を締結し、同工房は,上記指示された範囲内で,同年2月から平成19年末ころまで本件工事を行い,被告は,同工房に対し,平成14年2月20日 200万円,同年7月16日80万円,同年8月10日250万円,平成15年1月23日400万円,同年3月7日150万円,同年5月16日100万円,同年10月31日50万円,同年12月30日50万円の合計1280万円を支払った。
  6. 被告は,平成14年1月30日,〈業者B〉との間で,年合計賃料316万円の約定で本件工事に必要な油圧ショベル2台の賃借契約を締結し,同社に対し,平成14年2月1日から平成20年1月31日までのリース料合計2736万円を支払った。
  7. 被告と〈原告父〉は,上記合意内容を再確認の上,賃料の支払は毎年2月末まで の先払いとすることを合意して,本件契約を締結した。
  8. 被告は,平成16年5月2日,〈業者C〉から本件土地を購入してほしい旨の申出を受けた。
  9. 被告は,平成16年夏頃,隣接の加茂町の〈加茂町B〉ほか2名から,本件土地の境界を侵害して本件工事を行っているとの苦情を受けた。
  10. 被告は,本件土地について,〈原告父〉又は原告に対し,平成14年3月から平成17年2月分の賃料を支払ったが,原告が本件土地の同年3月から平成18年2月分の賃料の受取を拒否したため,平成17年2月28日,同賃料12万円を法務局に供託し,以後,平成22年2月16日まで毎年の賃料の供託を続けた。
  11. 被告は,〈業者D〉に対し,平成17年11月28日,牛舎新築工事の設計料等として25万円を支払い,板倉石油株式会社に対し,平成14年から19年までに,上記油圧ショベル2台の燃料代金として合計990万2652円を支払った。
  12. 被告は,平成19年夏頃,再び〈加茂町B〉らから,本件土地の境界を侵害しているとの抗議を受けたため,同年9月3日,本件土地の範囲の確認を求めて,原告を相手方に,奈良簡易裁判所に対し、民事調停の申立てを行ったが,不成立となった。
  13. 被告は,平成19年夏頃までに,〈加茂町B〉らから,不動産侵奪,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の容疑で告訴された。
  14. 被告は,平成20年2月29日,上記告訴につき, 不起訴処分となったが,検察官の指導を受けて,本件工事を中断した。
  15. 被告は,原告が平成21年12月15日本訴を提起したため,平成22年4月14日付け内容証明郵便で,原告の債務不履行により,本件契約を解除することを通知し,同郵便は原告に翌15日に配達された。
  16. 被告は,結局,本件土地で畜産業を行うことができなかった。
2 争点(1)ア(本件土地の掘削は本件契約の内容か)について

(1) 上記認定事実によれば,被告が本件土地を掘削することは,本件契約の内容に含まれていたというべきである。すなわち,本件契約の話が出た平成13年当時,本件土地は地目・現況ともに山林で,そのままでは畜産業を行うために本件土地を利用することは困難であったと認められること,本件契約の特約条項に,契約の目的として,被告が畜産業を行うことが記載されていること,被告は,〈原告父〉と本件契約の内容がまとまった直後である平成14年1月,〈業者A〉との間で,本件工事請負契約を締結し,平成15年12月30日までに合計1280万円を支払い,〈業者B〉との間で,年合計賃料316万円の約定で本件工事に必要な油圧ショベル2台の賃借契約を締結していること,被告は、平成14年から本件工事を行っていること,被告が隣接の加茂町の〈加茂町B〉らから,本件土地の境界を侵害して本件工事を行っているとの苦情を受けたのは,平成16年夏頃であること,原告が賃料の受取を拒否し始めたのは,平成17年3月から平成18年2月分までの賃料からであり,〈原告父〉又は原告は,平成14年3月から平成17年2月分ま での賃料については受け取っていたこと,原告の陳述書・供述によっても,〈原告父〉又は原告は,平成15年春頃には本件工事を知っていること,被告は,〈加茂町B〉らから,本件土地の境界を侵害しているとの抗議に対し,民事調停の申立てを行い,正当な権利者として行動をとっていることに照らせば、被告は,本件契約成立の当初から,本件工事を行う前提で行動しており,〈原告父〉又は原告は,少なくとも平成16年2月の賃料受取までは本件工事を是認していたと認められるから,本件土地の掘削は本件契約の内容に含まれているというべきである。

(2) これに対し,原告は,甲第19号証によれば,本件契約の特約条項に,契約の目的として,被告が畜産業を行うことが記載されていないことを指摘し,同目的自体,本件契約の内容ではない旨主張するかのようであるが,被告の 供述によれば,同号証は,被告所持の契約書であり、契約締結後,持ち帰り後で記入すべきところ,そのままとなったものであること,甲第3号証は,〈原告父〉が所持すべき契約書の写しであることが認められ,同供述は合理的で不自然な点は見受けられないから,原告の同主張は採用できない。

また,原告は,平成16年3月6日,被告が重機で加茂町の〈加茂町B〉ほか3名共有の山を削っていたので,これをとがめたところ,被告が〈加茂町B〉さんが削ることを承諾していると言ったので、半信半疑ながら,〈加茂町B〉さんが了解していると言われて、言い返すことができませんでした旨陳述・供述するが,原告主張のとおり,被告が本件土地を掘削することが,本件契約の内容に含まれていないというのであれば、上記〈加茂町B〉の了解の有無にかかわらず,被告に対し,本件工事の中止をいうことができるのであるから,原告の上記陳述・供述は,原告が,本件工事は,本件契約の内容に含まれていたと理解していたことにほかならないというべきである。

3 争点(2)ア(被告の本件契約の解除につき,原告の帰責事由の有無)について

上記によれば,被告が本件土地を掘削することは本件契約の内容に含まれていたのに,原告は含まれていないとして本訴を提起し,本件契約の義務を履行する意思が全くないことを明らかにし,本件土地において被告が畜産業を営めないようにしたのであるから,被告の本件契約の解除について,原告に帰責事由があるといわなければならない。

4 争点(2)イ (被告の損害額)について

上記認定事実によれば,原告は,本件契約が有効に継続する前提の下に,油圧ショベル2台のリース代金2736万円,〈業者A〉に対する工事代金1280万円,油圧ショベル2台の燃料代金990万2652円,牛舎新築工事の設計料等25万円の合計5031万2652円を支出し,被告は,結局,本件土地で畜産業を行うことができなかったことが認められるから,被告の損害額は上記5031万2652円というべきである。

5 以上によれば,争点(1)イ(原告の損害額)を検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は全部理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。

奈良地方裁判所民事部
裁判官 一谷 好文
別紙

物件目錄
所在 奈良市東鳴川町
地番 502番
地目 山林
地積 2314㎡