被控訴人(一審原告)控訴答弁書・証拠説明書

令和4年(ネ)第1465号 損害賠償等調求控訴事件
控訴人(一審被告) 遠藤千尋
被控訴人(一審原告) 株式会社村田商店

控訴答弁書

令和4年9月9日
大阪高等裁判所第8民事部ロ③係 御中
原告代理人弁護士

第1 控訴の趣旨に対する答弁

  1. 本件控訴を棄却する。
  2. 控訴費用は、控訴人の負担とする。

との判決を求める。

第2 不動産侵等(FACT.1)

1 本件土地1 の無断掘削及び不法占拠について

控訴人は、本件記事中で、本件土地1を特定して、無断掘削の事実を適示した記事は存しないと弁解するが、原審判決は、記事の内容を逐次吟味した上、控訴人の主張を排斥したもので、その判断は適正である。

そして、本件土地1につき、〈村田商店代表乙の父〉に掘削権限のあることが民事裁判で確定しているので、無断掘削という記事に真実性、相当性を認めるに足りる事情は見当たらないとした原審判決は、批判の余地が無い。

また、本件土地1の村田養豚場の占有権限についても、本件賃貸借契約が終了したことを認めるに足る証明はなく、したがって、不法占有になっていたとする本件記事の真実性、相当性は認められないとした原審判決は、適正である。

よって、本件記事の本件土地1に関する記述は、真実性、相当性を欠くものである。

2 本件土地2の無断掘削及び本件土地3の不法占拠について

被控訴人は、独自の境界主張によって、控訴人の無断掘削、不法占拠に関する本件記事の真実性、相当性を主張する。しかし、下記の通り、原審判決が判示するように、本件記事の真実性、相当性は認められない。

(1)境界未確定

まず、原審判決は、控訴人の境界主張の根拠となっている本件原確定図(甲7の3)は正確性が担保されていないと認定したうえ、本件境界は、境界確定訴訟において法的に確定されるまでは、認定できないとしている。

その原審の判断は、適正である。

この点、本件原確定図(甲7の3)の作成に関わった木津川市と、その折、立ち合いの機会が与えられなかった奈良市との、令和4年6月22日の協議においても、次のように、原審判決と同様の、境界に関する両市の見解が示されている(甲23)。

奈良市「平成19年に木津川市側を確定された際、奈良市側と思われる範囲まで本市の協力なしに確定されたため、その後一部の確定を取り消されたと理解している。」

奈良市「再確定を実施する部分だけでなく、周辺部分を含めて既存資料と整合が図れる内容でなければ本市や関係地権者の理解を得ることは難しいのではないか。」

木津川市「隣接地の境界確定訴訟の一部の筆界点が里道にあたっているため、その判決が出るまで具体的な境界の検討は困難と考えている。」

奈良市「境界確定訴訟の判決まで具体の境界案を共有することは難しいが、行政界がどうあるべきかなど既存資料で可能な検討は進めるべきと考えている。」

以上の通り、奈良市、木津川市の両市とも、原審判決と同様に、控訴人の主張する本件原確定図(甲7の3)によって、本件境界は確定しているものではないという見解を示しているものである。

(2)刑事処分

次に、原判決は、本件土地2及び本件土地3の所有者らがした〈村田商店代表乙の父〉を被疑者とする本件土地2の不動産侵奪罪の刑部告訴についても、捜査は行われたが不起訴処分とされていることを、本件記事の真実性の証明がなされていない重要な根拠として判示した。

認証の刑事事件(不動産侵奪罪)の不処分は、「不動産侵奪」という本件記事を真正面から直截に否定する事実であって、原審判示は、頗る適正である。

そして、控訴人は、〈村田商店代表乙の父〉の処分を「起訴猶予」と主張するが、そのような客観的証拠は何もなく、本件記事の真実性や相当性を認める根拠にはなり得ない。

(3)鳴川村実測全図(乙86

原判決は、被告が提出した実測全図(乙88)についても、被告の現地再現結果は、現況の近隣住居の位置と齟齬しており、正確性に疑問を差し挟む余地がある(乙88の5被告本人29~30)などとして、これによって、境界を正確に看取できるものではないと判示している。

この点、控訴人は、控訴理由書第4において、実測全図の信用性を縷々述べているが、この実測全図と航空写真の重ね方による境界探索手法について、多大な疑義があることは、現在係属中の境界確定訴訟において、被控訴人が提出した〈土地家屋調査士Y〉土地家屋調査士の意見書で述べられている(甲24)。

すなわち、実測全図は、村の外周距離については測量されており、そこに、一定の信用性のあることが認められるが、同図は、村内の502番地(本件 境界対象土地)等の土地の面積・広さ・縦幅・横幅については測量しておらず、したがって、測量数値の記載もなく、全く信用性がない。特に、山林は高低差が著しいところ、高低差を反映する測量技術はなかったので、尚更である。そして、一般的に当時の実測図などから計算された山林地の登記簿面積は、実測面積より遥かに小さいことが多いと言われている。

したがって、そのような実測全図を用いて航空写真と重ねても有意性はないのである。

そして現実に、控訴人の重ね図は道路や河川の状況や周辺土地の占有状況と食い違っていることが、上記、〈土地家屋調査士Y〉土地家屋調査士の意見書(甲24)で述べられている。

(4)尾根境界

被控訴人は、境界確定訴訟で、本件境界が尾根境界であることを主張し、過去の航空写真及び、それから解析したと考えられる京都府木津川市都市計画図面で表示された山林尾根と、現況航空写真を重ね合わせて、本件境界を探索する主張をしている。

詳細は、〈土地家屋調査士Y〉土地家屋調査士の意見書(甲25)の通りである。この主張によれば、被控訴人に無断掘削の事実は認められない。

これに対して、控訴人は、控訴理由書第4において、国土基本図からの尾根線探索を試みているが、重ね方に問題がある。

そして、いずれにしても、控訴人は、被控訴人の不動産侵等を根拠づけるために、一方的な資料に基づき、偏頗な分析をしているだけであって、被控訴人の不動産侵奪を客観的に証明するものではない。

(5)小括

以上の通り、原審判決の判示する通り、控訴人の無断掘削、不法占拠の真実性は、証明されていない。そして、控訴人控訴理由惑の主張と控訴審で提出された証拠によっても、原審判決を覆せるものではない。

そして、原密判決が判示しているように、控訴人が、本件記事で記載している事実は、不動産侵等という犯罪行為にも当たるものであることからすると、相当性の認定は慎重であるべきである。そうすると、山林の境界確定についての専門家の知見を踏まえた十分な調査もないまま、〈村田商店代表乙の父〉の掘削行為が本件境界を越えたものと信じたことに、控訴人に相当な理由があると認められないとした原審の判示は正鵠を得ているというべきである。

第2 公道(里道)の不法占拠(FACT.2)

1 通行人に対する恫喝について

村田養豚場関係者らが、通行人に対し、恫喝をしていたと認めるに足りる客観的証拠はなく、村田養豚場が、通行人に対する恫喝により違法な通行妨雪を行っているとまでは認められないとした原判決は、正当である。

控訴人は、控訴理由書において、〈村田商店代表乙の父〉が自身の意に沿わない相手に激昂しやすい旨主張するが、この主張自体、村田養豚場が、通行人を恫喝し違法に 通行妨雪を行っていたことを根拠付けるものではない。乙169号証についても、土地境界等に関し一定の紛争が認められる相手であり、しかも、その同伴者が手に鎌を持っていた(通常人であれば鎌など兇器となり得るものを把持している人物を警戒するのは当然であると思われる)という状況での会話内容であり、公道の通行人に対する恫喝、という点でいえば一切関係のない事実である。

また、控訴人が指摘する乙170号証についても、旅行者が養豚場敷地内に誤って入ってしまった際に、それを指摘した〈村田商店代表乙の父〉と口論になった、というものであり、認証が同旅行者に罵声を浴びせたなどの記載は一切なく、そもそも、村田養豚場が管理する敷地内に立ち入ってしまった者との間の口論に関する証拠であって、公道の通行人に対する恫喝行為との関係で意義のあるものではない。

以上からすれば、村田養豚場が、公道の通行人に対し、恫喝行為により違法に通行妨害をしていたと認定するに足りる客観的な証拠は存在しておらず、原判決の認定は正当である。

2 立入りを制限する看板の設置について

立入り禁止の看板を設置していたことについては、奈良県が、村田養豚場に対する衛生管理区域の設定を養豚場敷地及び養豚場敷地を縦断する黒道にも指定していたことに伴い、行政からの指導によって設置をしていたものである。乙99号証からも、かかる衛生管理区域の設定が県により主尊されていたことは明らかである。これら行政による指導については、豚コレラに対する防疫として行われていたものであり、豚の飼養を業として行っている村田養豚場としては、当然従わざるを得なかったものである。

そして、平成28年3月、公道が衛生管理区域の指定から外されると、村田養豚場は、前記立入り禁止の看板については撤去しているものである。

村田養豚場によるかかる看板の設置が違法であったと認められる余地はない。

したがって、公道の通行制限していたことは認められるが、このような措置が違法であると認めるに足りる証拠がないとした原判決は、正当である。

3 小括

以上からすれば、村田養豚場が通行人を恫喝したり、立入りを制限する看板を設置して不法に公道を占拠していた、との事実を適示する部分について、名誉毀損の不法行為が成立するとした原判決は、正当である。

第3 公道の不法占拠(FACT.3)

まず前提として、村田養豚場の敷地の間に存する市道については、私有地との境界が明示されておらず、その位置を正確に特定することはできない。

そして、村田養豚場は、かかる市道について、恒常的に事業用の重機や、機材等を置くことによって通行人による通行を妨げるようなことはしておらず、市道を含むと思われる範囲については、その空間を空けている。

その上で、養豚場の業務における必要性に応じて、市道を使用することはあるが、それは、1日に午前と午後の1回ずつ、約10分程度の作業であって、この作業時間を越えて市道を占拠し続けているというものではない。被告が指摘する、作業現場を撮影したと思われる写真についても、村田養豚場が作業をしている時間を切り取ったものであり、恒常的に市道上で作業をしている、という証拠たり得ない。

また、控訴人は、乙161号証により、市道上でフォークリフトが操業していることが問題視され、それが常態化していることが示されている旨主張するが、乙161号証によりフォークリフト操業において問題視されていたのは、その車両の仕様の点であったと思われる。甲26号証によれば、公道を横断していたフォークリフト等に関し、ナンバープレート取得の手続きを行うよう指導されており、村田養豚場はこれに従っている(甲27)。かかるやり取りから明らかなとおり、フォークリフト等が公道を横断すること自体について問題視をされているものではない。

なお、本件公道にかかる占用許可申請についても、継続的に認可されているものである(甲28)。

以上からすれば、村田養豚場が、公道上で作業を行っている事実が認められるとしても、業務上の必要に応じて使用することが直ちに違法とはならず、また、作業に要する時間を越えて恒常的に公道が占拠されていると認めるに足りる証拠はなく、村田養豚場による「不法な」公道占拠の事実には真実性、相当性ともに認められないとした原判決は、正当である。

第4 変更された記事について

よって、被控訴人は変更された記事について控訴審で主張することはしない。

控訴人によって変更された記事について詳細検討したところで、いわゆるイタチごっこに陥るだけと思われる。

控訴審はそれを前提にすみやかに結審されたい。

以上
令和4年(ネ)第1465号損害賠償等請求控訴事件
控訴人(一審被告) 遠藤千尋
被控訴人(一審原告) 株式会社村田商店

証拠説明書

令和4年9月9日
大阪高等裁判所第8民事部ロ3係 御中
【甲第23号証】報告書(写し)
作成日:R4.6.22
作成者:木津川市
立証趣旨:本件原確定図によって、本件境界が確定しているものではないという認識を奈良市、木津川市ともに持っていること
【甲第24号証】原告土地調査報告書に対する意見(原本)
作成日:R4.6.13
作成者:土地家屋調査士 〈土地家屋調査士Y〉
立証趣旨:実測全図と航空写真の重ね図による境界探索には疑義があること
【甲第25号証】境界に関する意見書(原本)
作成日:R4.6.7
作成者:土地家屋調査士 〈土地家屋調査士Y〉
立証趣旨:尾根境界を前提とする本件境界についての被控訴人主張
【甲第26号証】連絡事項処理用紙(写し)
作成日:R4.3.29
作成者:木津川市管理課 西村訓宏
立証趣旨:今和4年3月25日の現地確認においては、フォークリフト等の仕様が問題視されていたこと
【甲第27号証】報告書(写し)
作成日:R4.6.13
作成者:木津川市
立証趣旨:フォークリフト等の仕様について、村田養豚場が指導に基づき対応したこと
【甲第28号証】報告書(写し)
作成日:R4.6.27
作成者:木津川市
立証趣旨:村田発豚場の道路占用許可申請(継続)について、認可されていること