被告第5準備書面・証拠説明書(5)

令和元年(ワ)第338号 損害賠償等請求事件
原  告  株式会社村田商店
被  告  遠藤 千尋

被告第5準備書面

2020(令和2)年8月25日
奈良地方裁判所民事部合議1係 御中
被告訴訟代理人弁護士

第1 本準備書面の趣旨

原告が争点表において摘示事項に該当するとして挙げたいくつかの記述に関し、主要事実が真実であることを推認させる事情(意見ないし論評であれば、意見ないし論評の前提とする事実が重要な部分について真実であることを推認させる事情)を、これまでに十分に主張していないと思われたことから、本準備書面ではそれらについて補足する。また、訴訟提起後の村田養豚場の状況は、これまでの原告の主張と著しく矛盾しているので、本書面ではそのことについても触れる。

第2 被告の補充主張

1 被告が「奈良県家畜保健衛生所は(中略)公道の占拠にも率先してお墨付きを与えています。奈良県家畜保健衛生所は自ら、村田養豚場の不法行為に加担しています」と論評した根拠について

(1) 本件記事中の記述

ア 平成26(2014)年の春ごろ、被告は、村田養豚場周辺に多数の徘徊犬がいることを、奈良市保健所に通報したが、その際口頭で、「村田養豚場から南下し県道33号線に繋がる道は私道であり、衛生管理区域に設定されているということで、この道を通る場合は、奈良市保健所であっても、事前に村田養豚場に連絡するか、東鳴川から赤田川沿いに入る、別の道を通るよう村田養豚場と奈良県家畜保健衛生所から求められている」という趣旨のことを説明された。このことは、本件記事にも記載がある(甲2:17頁)。

ただし上記は口頭による説明だったため、これを裏付ける直接的な証拠は、今までのところみつかっていない。しかし、木津川市の平成26(2014)年6月12日付け報告書「養豚場に係る奈良県家畜保健衛生所の見解」(乙116:2〜3頁)に添付された、村田養豚場の衛生管理区域図(以下、「本件衛生管理区域図」)を見ると、このころ原告が設定していた衛生管理区域には、他人地や公道が含まれており、「その地域一帯を衛生管理区域に設定する」という、「前例がない」極めて異例なものであったことがわかる(乙74:2頁)。

また、京都府山城南保健所の平成28(2016)年3月1日付け報告書「浄瑠璃寺〜村田養豚場を抜ける里道の現地確認について」(乙42)では、冒頭部分で、「上記里道については、山城家畜保健衛生所を通じて、奈良県家畜保健衛生所から「通行可能」である旨の情報を得ていました」と前置きされている。このことは逆に、それまでは「衛生管理区域」を理由に、山城南保健所が当該里道の通行を拒否されていたことを示唆するものである。

イ なお、村田養豚場から南下し県道33号線に繋がる道(乙116:3頁)は、一部が確かに私道であるが、その所有者は原告ではなく、大阪の〈不動産業者J〉である。そこで平成27(20162015)年1月に、被告が同社に電話で問い合わせたところ、担当者から口頭で「確かにその道を所有しているが、道を村田養豚場に貸したりはしていない。そもそも土地取得前からある勝手道であり、なんら通行は制限していない」という趣旨の回答を得た。このことについては本件記事に記載がある(甲2:22頁)。

また、本件衛生管理区域図(乙116:2頁)左下の「この区間は私道」とある区間は、正しくは木津川市道である。一方、その右側の通行止めマークから丸印までの短い区間については、吹き出しに「この区間は私道」とある通り、確かに私道ではある。ただしこの道も原告の所有地ではなく、〈不動産業者J〉の所有地で、奈良市は、「当該現況道路部分については、(〈不動産業者J〉)取得前から地元で作られた道で、道路機能を有しており、民法上も通行権が発生している」(乙25:2頁。かっこ内は被告による補足。)としており、この道についても私道所有者が通行を制限していた事実は一切ない。ちなみに昭和58(1983)年に確定した里道は、村田養豚場の駐車場の中を通っており、現在は跡形もなくなっている(乙25:2頁)。

したがって、村田養豚場の敷地の間にある里道は、京都側から見て決して行き止まりなどではなく、所有者が通行を制限していない私道を経て、県道33号線あるいは東鳴川町の集落まで途切れることなくつながっていた。

加えて当該里道に当たる木津川市道(加)2092号線は、京都側から村田養豚場の間を抜け、村田養豚場の数十メートル南で、県道33号線へ繋がる私道と分岐したのち、府県境沿いに奈良阪まで続いており、昭和58(1983)年に里道境界が確定している(乙85)。

ウ 加えて村田養豚場周辺の公道は、奈良市側住民にとっても、通行できることが望ましい道であった。被告は平成26(2014)年の春ごろ、奈良市東鳴川町の住民(氏名不詳)から、「県道33号線は大型車両が多くて怖いので、養豚場の前を通る道を使って、中ノ川町方面へ行き来したい時もあるが、衛生管理区域だとかいうことで、通るなと言われている。養豚場手前の林のところに立入禁止の看板も設置された。奈良市に問い合わせてもまともに取り合ってくれない」といった話を聞いていた。

また同住民によれば、本件衛生管理区域図(乙116:2頁)左下に丸印で示された「この先車両通り抜けできません」という奈良市の看板についても、「いつの間にか設置されていた。養豚場のそばと県道からの分岐に同じ看板があるが、看板と看板の間の道はつながっていて、本当は通り抜けできるのにおかしな話だ。あれも養豚場が奈良市に言って設置させたのだろう」とのことであった。

周辺住民が村田養豚場周辺の公道を通らないよう要求されていたことについては、本件記事に記載がある(甲2:17頁)。

エ しかしながら、被告が本件記事(甲2:16〜28頁)で述べた通り、奈良県家畜保健衛生所は、公道上に設置された立入禁止の看板や、公道を衛生管理区域扱いとすることに関して、常軌を逸した主張を繰り返していた。本件記事の繰り返しとなるので、詳細を本書面で述べることはしない(本件記事(甲2:16〜28頁)を参照されたい)が、奈良県家畜保健衛生所が、被告の問い合わせに対し、公道上に立入禁止の看板を立てるよう村田養豚場を指導していると明言したことや、立入禁止の看板が木津川市に問題視されるや、奈良県家畜保健衛生所が、道がつながっていないと不正確な報告をしてまで、木津川市に「この先行き止まり」と書いた看板の設置を認めるよう迫っていたことは真実である(乙6:36〜37頁、乙116:1頁)。

以下、本件記事記載のいくつかの事実に関し補足する。

(ア) 本件記事(甲2:17頁下から4行目)に、「ある人が奈良県家畜保健衛生所にこのことを把握しているか問い合わせました」とあるが、この「ある人」とは被告本人である。

被告は、平成26(2014)年12月ごろ、奈良県大和郡山市にある奈良県家畜保健衛生所業務第一課を訪れ、村田養豚場とその周辺の状況について説明し、村田養豚場が公道上に設置した立入禁止の看板を撤去させるよう要請した。しかし担当者が不在だったため、被告は事務所内の電話を通じて担当者とやり取りをした。本件記事に記載されているのはその時のやりとりである(甲2:17〜18頁)。

(イ) また同じ頃被告は、農林水産省安全局動物衛生課の鶴田に、衛生管理区域の設定によって公道の通行を妨げてよい法的根拠があるのかどうかを問い合わせている。この時鶴田は、一般市民の公道通行が優先されるべきとの見解を示した。これについては本件記事に記載がある(甲2:18頁)。

(ウ) 本件記事に記載された、平成28(2016)年6月14日付けメール「【回答】奈良市の法定外管理物(里道)と衛生管理区域の設定について」(甲2:18〜20頁)は、被告が、ある奈良市住民から情報提供を受けたものである。個人情報が原告に明らかとなることを当該人物が望んでいないため、本メールを証拠として提出することはしない。

(エ) 本件記事には、平成26(2014)年12月18日に、木津川市管理課で、職員の許可を得て被告が撮影した文書「飼養衛生管理基準の改正に関するQ&A」のQ10が記載されている(甲2:20頁、乙117)。被告は、この文書について、木津川市管理課から、奈良県家畜保健衛生所職員が平成26(2014)年6月に木津川市管理課に立ち寄った際、携えてきたものだと説明を受けた。その時、奈良県家畜保健衛生所職員が、この文書を用いて木津川市管理課に行なった説明は、木津川市管理課によれば、本件記事のとおりである(甲2:20頁)。なお、平成26(2014)年4月24日に、村田養豚場が里道の通行に際し通行人に消毒を求めていることについて木津川市に苦情を申し入れた(乙74)のは被告ではない。被告が「飼養衛生管理基準の改正に関するQ&A」の存在を知ったのは、木津川市管理課を訪れた平成26(2014)年12月18日である。

(オ) 本件記事記載の平成26(2014)年第2回木津川市定例会(6月24日)議事録は、木津川市議会のウェブサイトからコピーしたものである(乙6:36〜37頁)。本件記事記載の議事録には、木津川市議会ウェブサイト上にある該当議事録へのリンクが設定されている。

オ 被告第3準備書面22〜24頁で既に述べた通り、本件記事で紹介した村田養豚場の間にある里道を通り抜けようとした人物の証言(甲2:24頁)は、〈村田商店代表乙の父〉に恫喝された本人から、被告に提供された。またこの人物は、村田養豚場付近で犬に囲まれたことを、京都府山城南保健所に通報しており、その通報の中で「養豚場の人にかなり脅された」と述べている(乙40)。

カ 本件記事で紹介している「村田養豚場の北側で草刈りをした方の証言」(甲2:26〜27頁)は、被告第3準備書面19〜21頁で既に述べた通り、被告自身の体験である。この時、〈村田商店代表乙の父〉は、携帯電話を使って奈良県家畜保健衛生所に電話をし、当初女性職員が「公道は敷地ではないから、通行する人に名前と住所を告げるよう言うことはできない」と答えていたところ、〈村田商店代表乙の父〉が「お前じゃ話にならない、別のやつを出せ」と怒鳴り散らし、その結果、女性職員から交代した男性職員が、「村田養豚場では衛生管理のため公道を通る場合も入場記録を取ることになっています」と、〈村田商店代表乙の父〉の意向に沿った答えを返すようになった。被告はその様子を実際に目の当たりにしているので、このような体験によって、被告が、「奈良県家畜保健衛生所が村田養豚場に言われるまま、公道の通行妨害に加担してきた」という印象を持つことは全く無理のないことであって、被告が本件記事においてそのように論評したことは表現の自由の範疇に属する。

キ しかも奈良県家畜保健衛生所は、(これは本訴訟が提起されて後、木津川市に情報公開請求をして初めて被告が知ったことではあるが、)平成26(2014)年4月25日の段階で、木津川市からの問い合わせに対し、「道路からすべてを衛生管理区域だということには衛生所も違和感がある」「村田養豚場のようにその地域一帯を衛生管理区域に設定するということは前例がない」と答えていた上、平成26(2014)年5月13日までには、国から「他人地を衛生管理区域に設定するのは好ましくない(中略)指導し是正していくべき」との回答を得ていた(乙74:2頁)。

それにも拘らず、奈良県家畜保健衛生所は、平成26(2014)年12月ごろ、被告が事務所を訪れた際、「敷地の間にある公道も含めて衛生管理区域が設定されている以上、公道の上にも立入禁止の札を立てなければならない」と明言している。これは、前述の、国からの回答を全く無視した対応だと言わなければならない。

さらに、平成27(2015)年11月4日に、被告が村田養豚場の北側で草刈りをしていた際、奈良県家畜保健衛生所の男性職員が被告に入場記録をお願いしたことも、前述の、国からの回答からはあり得ない対応と言える。

結局、木津川市が、当該里道が村田養豚場の衛生管理区域から除外されたことを確認できたのは、奈良県家畜保健衛生所が、国から前述の回答を得てほぼ2年が経った、平成28(2016)年3月16日のことであった(乙99)。このような奈良県家畜保健衛生所の不誠実な対応は、法律や飼養衛生管理基準、さらには国からの回答さえも軽視して、原告の意向に過剰におもねろうとするものだと解釈されて当然であり、行政として異様である。

(2) 本件記事公開後の動き

ア 被告第1準備書面47〜49頁及び58〜59頁で述べた通り、奈良県畜産課は、平成31(2019)年3月以降、木津川市に対し、村田養豚場の西側を流れる水路について追加工事を行うことと、家畜防疫のため木津川市道を封鎖する門扉の設置を認めることを、再三にわたって要請している(乙62乃至65)。

イ その際原告及び奈良県畜産課は、排水処理設備を改修するには、事前に追加の水路工事が必要だと主張していたが、結局、追加工事なしに何の支障もなく、平成31(2019)年4月末ごろには、排水処理設備の改修が開始され、6月には新しい排水処理設備が概ね完成した(乙72(32))。

原告第1準備書面19頁によれば、原告が改修を進めていた排水処理設備は、令和元(2019)年10月ごろ、ほぼ完成形になったとのことであるが、この時期、排水処理設備に追加されたのは、縦穴脇に新設されたポンプのような機械のみである。外から観察する限り、このポンプには、縦穴の底に空気を送り込み、固形物が沈殿しないよう汚水を攪拌する機能があるとみられる(乙118)。

ただし、排水処理設備の詳細について、今なお原告は、木津川市への情報提供を拒んでおり、新設されたポンプの実際の機能を、被告が知るすべはない。また村田養豚場の排水処理設備については、奈良県及び奈良市ともに、木津川市から、状況を確認の上、情報を提供するよう要請されているが、両者ともこの要請を断っている(乙119)。そのため木津川市は令和2(2020)年3月末頃においても、「養豚場の浄化装置などの現状の排水状況を説明できる十分な資料もなく、上流の状況を住民にご説明することが難しい」としている(乙119:3頁)。

ところで原告は、平成30(2018)年9月ごろ、それまで使用していたコンクリート製の貯留槽を撤去したが(乙72(21))、その後既存貯留槽の撤去によってできた穴には、汚水が溜められていた(乙72(22))。しかしこの穴は、穴の側面に土留めとしてコルゲート管の残骸が置かれているだけの、素掘りの穴であった。外から観察する限り、穴に溜まった汚水は、特に何の処理も施されないまま、豚舎北西角の縦穴から、ポンプで養豚場西側の水路に流し込まれていたと見られる(乙72(23))。

当然ながら、養豚場の排水が何ヶ月にもわたってこのような状態にあることは、全く望ましくないと考えられるが、木津川市の報告書には、奈良県が、原告に対し、排水処理設備の改修を急ぐよう促していたとわかる発言は記録されていない。この間奈良県は、木津川市に対し、どちらかと言えば原告の言い分を代弁することに終始していたように見受けられる(乙62乃至65)。その一方で、木津川市長自らが、奈良県知事に、赤田川の水質改善について、文書で協力を依頼しているにも拘らず(乙17の1)、奈良県が、赤田川の水質改善に取り組む木津川市に、取り立てて協力的であったようには思われない。奈良県のこうした傾向は現在も続いている。

ウ 原告と奈良県畜産課が設置許可を求めていた市道を封鎖する門扉については、奈良県の度重なる要請(乙62乃至65乙120:4・6頁)により、令和元(2019)年7月に、木津川市が許可を出す方針を固め(乙120)、令和元(2019)年10月には、当初市道への門扉設置に難色を示していた木津署(乙75)からも許可が下り(乙121)、令和元(2019)年10月中に、原告によって、まずは赤田川南側の市道上と橋の北のたもとの二箇所に門扉が設置された(乙122)。

これら門扉は、村田養豚場周辺に野生イノシシが多数生息していることなどを理由に設置されたが(乙120:13頁)、原告は以前から敷地周辺で、野生動物の餌となるものを定期的に撒いており(乙56(11)乃至(14))、そのことが野生イノシシを村田養豚場周辺に誘引していたであろうことは疑いようがない(乙56(15))。ところが、原告による餌撒きは、防護柵及び門扉が設置された後も、それまでと変わらずに続き、令和2(2020)年5月末ごろには、原告が餌を撒いている赤田川北側の餌場に、多数の子供を引き連れたイノシシの群れが現れている(乙126)。したがって原告の餌撒き行為は、村田養豚場周辺に生息する野生イノシシの繁殖を助けているとも考えられ、イノシシ対策という門扉設置の理由と明らかに矛盾しているが、奈良県が、能動的かつ厳格に、原告に餌撒きをやめるよう指導した様子は見られない。

そればかりか奈良県は、カラスが豚舎に入らないよう、原告に防鳥ネットを張らせることさえしていない(乙127)。その一方で、奈良県は、京都府農林部畜産関係部署に協力を呼びかけてまで(乙62:3・5頁、乙120:2頁)、木津川市道の封鎖には熱心に取り組んできた。被告が監督官庁として異様だと感じ、本件文書でそのように論評した、奈良県の、原告におもねる態度は、現在もなお、全く変わっていないと言える。

エ また赤田川北側の防護柵と門扉については、本件土地2所有者が、防護柵を設置する場合は、平成19(2007)年の市有土地境界確定図にある土地境界(本件原確定境界)を越えないよう求めていた(乙84の2)が、被告第4準備書面13〜15頁で述べたとおり、原告は令和2(2020)年1月10日ごろ、原告が望んでいた位置に、防護柵と門扉を設置を強行した(乙84の4)。

しかし、防護柵が緊急に必要なものであるとしても、もし土地境界に争いがあるのであれば、まずは争いのない場所に柵が設置されるべきである。その上で、どうしてもその場所に納得いかない場合は、事業を行いたい側が費用を全て負担して、筆界特定制度などによって争いを解決し、それによって可能となった場合のみ、もともと希望していた場所に柵を移設する、というのが、本来あるべき手続きであろう。ところが現状ではそうなっていない。言うなれば現状は、他人の土地を囲う柵に国と県が全額出資している可能性を、国と県が許容している状態であり、これは補助金交付事業として著しく不公正だと言わなければならない。

加えて奈良県畜産課長の溝杭は、令和2(2020)年4月14日に開かれた木津川市との協議において、「豚舎を囲う柵は、赤田川に沿って張ればいいが、事業者がどうしても赤田川北側の土地も衛生管理区域に入れるというから仕方がない」と述べている。すなわち溝杭は、本件土地2所有者が越境を指摘している赤田川北側の防護柵については、そもそも防疫上は必要のないものだと考えているのである。それにも拘らず、原告による防護柵の設置は強行され、奈良県畜産課はそれをただ追認して、補助金を得るために国に説明まで行なっている(乙115:1頁)。

しかも驚くべきことに、奈良県畜産課が国に行なったという説明は全くの虚偽であった。本件土地2所有者の一人である〈加茂町B〉によれば、〈加茂町B〉は、防護柵の設置が原告によって強行されたことを受け、隣接地所有者から越境が指摘されている防護柵が、補助金によって支援されることについて、独立行政法人農畜産業振興機構に問い合わせをしていたが、令和2(2020)年5月初め頃、独立行政法人農畜産業振興機構より〈加茂町B〉に連絡があり、令和2(2020)年3月19日付けで、奈良県から、「村田商店及び防護柵設置箇所の隣接地の所有者の双方より、聞き取りを行い、当該事業の実施について異存がないことを確認した」旨文書により報告を受けたため、それまで補助金の交付を見合わせていたところ、3月25日に補助金の交付を決定した、と知らされた。

乙第125号証が、令和2(2020)年3月19日付けで、奈良県が独立行政法人農畜産業振興機構に送った文書(以下、「本件奈良県報告書」という。)である。この文書には、確かに、独立行政法人農畜産業振興機構が指摘する趣旨の記述がある。ただし、令和2(2020)年3月中頃、奈良県畜産課長溝杭が、本件土地2所有者の一人、〈加茂町B〉に電話で聞き取りを行なったこと自体は真実であるが、〈加茂町B〉が、本件奈良県報告書記載の項目に異存がないと述べた事実はない。

これまでに被告第2準備書面25〜27頁及び被告第4準備書面13〜16頁で述べたとおり、本件土地2共同所有者らは、一貫して、防護柵を設置すること自体には反対していない。しかし同時に、本件土地2共同所有者らは、防護柵を設置する場合は、本件土地1前所有者と合意した土地境界である、本件原確定境界を越境することのないよう強く求めてきた。したがって、〈加茂町B〉が、「隣接地との境界が未確定」であることを前提とした、本件奈良県報告書記載の3項目について、「異存がない」と答えたはずは無い。実際、被告が〈加茂町B〉に確認したところ、〈加茂町B〉は、溝杭にそのような話はしていないと明言した。

なお、奈良県畜産課が「(株)村田商店及び防護柵設置箇所の隣接地の所有者の双方より(中略)異存がないことを確認」したという3項目は、原告が本件土地2共同所有者らに送付した、令和2(2020)年2月17日付けの覚書における原告の主張(乙123:3〜4頁)と、非常によく似ている。ただしこの覚書については、その内容が一方的で、本件土地2共同所有者らにとって、合意できるところが全くなかったため、本件土地2共同所有者らは令和2(2020)年3月23日付けの返答書で、原告の提示した覚書を拒否することを、原告に明示している(乙124)。

また、令和2(2020)年4月14日に開かれた、奈良県畜産課と木津川市との協議において溝杭は、防護柵設置に関し、「『民々界が決まらないので、暫定的に張っていて、境界が決まれば事業者の責任で張り直される』ということで、隣接地所有者も異存がないと確認した」とは、語っていない(乙115:1頁)。もし、本件奈良県報告書記載の事実が真実であれば、溝杭は、木津川市にそれをそのまま伝えれば良いはずである。しかるに、そのような発言は木津川市の報告書に全く記録されていない。それどころか溝杭は、木津川市から、本件土地2共同所有者らが、原告から提示された覚書を明確に拒否したことを指摘されると、「でも、事業者の明確な意思は示されたと理解している」と答えており、事業者の意思が示されれば、隣接地所有者の意思を無視しても問題ないとの見解を表明している。

加えて溝杭は、木津川市との協議で、〈加茂町B〉に「事業者(原告)へ売却すれば」と持ちかけたことを明かしているが(乙115:2頁)、この会話はまさに3月中旬の聞き取りで行われたものであり、〈加茂町B〉によると、このとき実際には、溝杭は「防護柵のあるところまで土地を売る気はないか」と持ちかけてきたとのことである。しかし、もし本件奈良県報告書記載の事実が真実であれば、このとき〈加茂町B〉は防護柵の現状に異存がないとの態度を示していたはずであるから、溝杭がこのようなことを持ちかける必要はない。すなわち、本件奈良県報告書記載の事実は、真実ではないのである。

以上のことから、奈良県畜産課長の溝杭が、独立行政法人農畜産業振興機構に補助金の交付を決定させるため、それが虚偽であることを知りながら、虚偽を記載した本件奈良県報告書を作成したことは、明らかである。そして溝杭は、本件奈良県報告書を、真正に成立したものとして、独立行政法人農畜産業振興機構に送り、同機構に報告書記載の事実を真実だと誤信させ、補助金の交付を決定するに至らせた。付言すれば、本件奈良県報告書は、奈良県農林部畜産課長の印がある有印公文書である。

したがって溝杭のこれらの行為は、虚偽公文書作成等罪(刑法第156条)及び偽造公文書行使等罪(刑法第158条)に該当する可能性が高い。それだけでなく、溝杭は独立行政法人農畜産業振興機構を欺いて、原告に補助金を得させようとしたのであるから、溝杭の行為は詐欺罪(刑法第246条)に該当する可能性も考えられる。

オ また、本件奈良県報告書は、本件土地2共同所有者らが、一時的にせよ、本件土地1と本件土地2の土地境界が未確定であるとする原告の主張に同意していた証拠として、原告などによって、今後持ち出され得るものである。溝杭がこのような虚偽公文書を作成したことは、公務員としてあるまじきことであり、断じて許しがたい。

以上のとおり、奈良県畜産課が、原告の意向に沿うためならば、違法性が強く疑われる行為さえ厭わないことには、唖然とさせられるが、奈良県畜産課と原告のこうした関係性は今に始まったものではなく、本件記事が公開されるずっと以前から続いてきたものと考えられる。

2 被告が本件記事に「奈良市土木管理課は、村田養豚場(村田畜産/村田商店)により奈良市の認定市道が占拠されていることを知りながら敷地境界が確定していないことを理由にいっさい何もしようとしません」とした根拠について

本件記事に記載している通りである(甲2:29〜30頁、乙132)。

3 村田養豚場の現状について

(1) 原告は、防護柵設置後も、以前(乙56(11)〜(16))と変わらず、本件土地1・2あるいは村田養豚場南の三叉路脇で、定期的に、イノシシなど野生動物の餌となるものを撒いている(乙126)。被告の観察では、原告が餌を撒いてから数分以内に、イノシシが餌場に姿を現しており、村田養豚場周辺に生息するイノシシは、原告が餌が撒く時間を知っているか、餌場近辺からあまり移動せずに生活しているものと考えられる。

この原告による餌撒きは、餌場とされている本件土地2の所有者からすれば、所有地に生ゴミを投棄されているのと同じである。また、原告による餌撒きにより、周辺地域に生息するイノシシが増え、イノシシによる農作物被害が増えることも当然心配された。そのため、本件土地2共同所有者の一人〈加茂町B〉は、令和元(2019)年秋頃から、原告及び奈良県畜産課に対し、餌撒き行為をやめるよう求めてきた(乙131:2頁)。

しかし、原告の餌撒き行為はその後も続き、令和2(2020)年6月12日、イノシシの子供が多数繁殖していることに驚いた〈加茂町B〉らが、奈良県畜産課ではなく木津川市農政課に文書で申し入れをした(乙131)ことで、ようやく奈良県家畜保健衛生所から原告に何らかの指導が入り、それ以降、少なくとも赤田川の北側では、原告によって餌が撒かれた形跡は見られなくなった。ちなみに、上記申し入れに際し、被告は〈加茂町B〉に依頼され、要望書に添付する写真を提供している(乙131:4頁)。

この原告による餌撒きについては、京都府家畜保健衛生所が、木津川市からの問い合わせに対し、「飼養(衛生)管理基準上好ましくない」と回答している(乙131:1頁担当者メモ。かっこ内は被告による補足。)。その一方で、奈良県畜産課が、まさに餌を撒かれている隣接地の所有者当人から問い合わせを受けていたにも拘らず、そのような「飼養(衛生)管理基準上好ましくない」行為を黙認し続けていたことは、理解に苦しむ。

なお村田養豚場南の三叉路付近の餌場には、その後もたびたびカラスや犬が群がっており(乙126:(25)(26))、規模や頻度が縮小されているにせよ、原告がいまだ餌撒き行為を継続している可能性がある。

原告がなぜ、野生イノシシの餌付けとも取れる「飼養(衛生)管理基準上好ましくない」行為を執拗に繰り返しているのか、その真の目的は不明であるが、意図的にイノシシを引き寄せ、イノシシが近寄ることを理由に、犬の放し飼いや、門扉による市道封鎖を正当化し、それらをより強化しようという目論見があるとも考えられる。したがって、そうした目論見を達成するために、今後、原告が時期を見計らい、餌撒きを再開することが心配される。

(2) 原告は、令和2(2020)年8月現在、豚舎に防鳥ネットを設置しておらず、以前(乙56(2)(13)〜(17))と同様、カラスが豚舎などに進入しており(乙127)、防疫からは程遠い状態である。

(3) 原告は、防護柵設置後も、柵の外での犬の放し飼い及び野犬の餌付けを続けている。被告は、令和2(2020)年4月6日に、村田商店代表〈村田商店代表甲〉が、柵の外にいる首輪のない犬に餌を与えている様子も確認している(乙128:(31)(32))。また、被告は、令和2(2020)年3月18日に 、村田養豚場から1.2キロほど離れた、牛塚近くの里道で、村田養豚場の敷地内にいたと思われる犬を目撃している(乙128:(12)乃至(16))。

しかし原告に何らかの指導が入ったのか、令和2(2020)年5月初めごろ以降、赤田川北側の防護柵の外では、徘徊犬をほとんど見かけなくなった。その一方で村田養豚場南側の三叉路付近では、その後も必ずと言っていいほど数頭の犬が徘徊しており、それらの犬は、原告が意図的に防護柵の外に配置しているようにも思われる(乙128:(47)(48)(50)(51)(54))。防護柵の外に首輪のある犬が徘徊していることもある(乙128:(48)(50)(51))。

なお村田養豚場の敷地の間にある木津川市道には、現在でも、ほとんど常に、数頭から10頭ほどの徘徊犬がおり、一般人が当該市道を通行することに躊躇するような状況が、今なお続いている(乙122:3頁1枚目の写真、乙128)。

また木津川市道上に設置された門扉は、占用許可条件の2(乙121:2頁)に反して、日中も閉じられていることが多く、これを開閉して当該市道を通行しようとすると、開閉に手間取る間に門扉周辺に多数の犬が集まってくるだろうことは容易に想像できる。この状況で、一般人が門扉を開けて当該市道を通行することは、極めて困難である。

加えて、村田養豚場周辺にいる徘徊犬は、野生イノシシが近くにいても吠えることはなく、せいぜい遠巻きに眺めるだけで、餌場付近に野生イノシシがいることにすっかり慣れてしまっている(乙126:(2)(12)(21)(22)、乙128:(39))。犬の存在が、野生イノシシ対策として、何か効果があるようには全く見えない。

(4) 原告は、以前(乙59)と変わらず、木津川市道上で重機を使った作業を日常的に行っている(乙122:2頁1枚目の写真、乙129)。

(5) 原告は、本件土地2に防護柵を設置した直後から、令和2(2020)年1月末頃まで、市道上の門扉に以下のように書かれた看板を掲げていた(乙130)。

「家畜伝染病予防のため
・1週間以内に海外から入国した方の立ち入りを固くお断りします。
・4ヶ月以内に海外で使用した衣服や靴の持ち込みは禁止です。
・車両および靴底の消毒、立入記録ノートへの記帳をお願いします。」

ところで、被告第1準備書面46頁で述べたとおり、平成23(2011)年から平成28(2016)年にかけ、原告は市道を含めて衛生管理区域であるとして、市道上に立ち入り禁止の立て札を立てていた(訴状8頁)。

令和2(2020)年1月に市道上の門扉に掲げられた上記掲示は、この時と同様、木津川市道を衛生管理区域として扱うことを既成事実化しようと目論むものだとも考えられる。このような掲示が、門扉設置に係る木津川市の占用許可条件に反することは明らかである。

そのため、おそらく木津川市あるいは奈良県から何らかの指導があり、 令和2(2020)年1月末頃までには、通行人に消毒や記帳を求める上記掲示は、市道上の門扉から全て撤去された。しかしこの一件は、原告が、木津川市道の衛生管理区域化を、いまだ諦めていないことを示唆している。

(6) 被告は、令和2(2020)年3月から6月にかけ、中ノ川町の山中にある府県境の道で、村田養豚場から引き返してきたという通行人に何度か遭遇している。そのいずれの通行人も、被告がどこから来たのか聞くと、府県境の道を奈良坂から浄瑠璃寺まで歩こうとしたが、途中で村田養豚場に行き当たり、路上に犬がいて怖かった上、市道上の門扉が閉まっていたため、村田養豚場の間にある里道を通り抜けられるようには思えず、やむなく引き返してきた、という趣旨のことを答えた。

道路占用許可条件にある通り(乙121:2頁:3)、市道上の門扉に近づけば、確かに通り抜けられる旨が掲示されてはいるが(乙122:2頁3枚目の写真)、遠目には看板に書かれていることを読み取ることが難しい(乙122:2頁1枚目の写真)。その上、市道上に門扉があって、門扉の向こうで重機が往来している現状は、市道にしては明らかに不自然であるから、門扉にある掲示が、実際とは逆に、敷地に入らないよう求めるものだと推測し、門扉に近づく前に道を引き返す人が少なからずいたとしても、全く不思議はない。

なお被告が令和2(2020)年6月17日に遭遇した通行人は、「閉まっている扉のところまで行ってみたが、犬がたくさん寄ってきただけじゃなく、ややこしそうな奴が出てきたので、面倒なことになると困るから引き返した」と語っていた。ことほどさように、原告が市道上に設置した門扉は、一般人の通行を不当に阻害しているのである。

以上のとおり、原告は、本訴訟提起後も、被告が本件記事で問題視したものと同種の行為を繰り返しており、これらの行為は、原告の主張のほとんどと相容れない。したがって、原告の主張は信用に値しない。

- 以上 -
令和元年(ワ)第338号 損害賠償等請求事件
原  告  株式会社村田商店
被  告  遠藤 千尋

証拠説明書(5)

2020(令和2)年8月25日
奈良地方裁判所民事部合議1係 御中
【乙第116号証】報告書(写し)
作成日:H26.6.12
作成者:木津川市管理課 橋本雅則
立証趣旨:原告が他人地や公道を含めて衛生管理区域を設定していたこと及び奈良県家畜保健衛生所が道がつながっているにも拘らず、行き止まりの看板を立てたいと主張していたこと。
【乙第117号証】木津川市管理課で見せられた飼養衛生管理基準Q&Aの写真(写し)
作成日:H26.12.18
作成者:被告
立証趣旨:被告が平成26(2014)年12月18日に木津川市管理課で、奈良県家畜保健衛生所が管理下への説明に使ったQ&Aを見せられていること。
【乙第118号証】令和元(2019)年10月に撮影した排水処理設備の写真(写し)
作成日:R1.10.4・R2.5.5
作成者:被告
立証趣旨:村田養豚場の排水処理設備に、令和元年10月に追加されたものが、固形物を攪拌するポンプと見られること。
【乙第119号証】報告書(写し)
作成日:R2.4.1
作成者:まち美化推進課環境推進係 竹村
立証趣旨:木津川市が「養豚場の浄化装置などの現状の排水状況を説明できる十分な資料もなく、上流の状況を住民にご説明することが難しい」と述べていること。
【乙第120号証】回議書(写し)
作成日:R2.7.2
作成者:木津川市管理課用地係 主査 駒文敬
立証趣旨:令和元(2019)年7月には、木津川市が市道上への門扉設置について許可を出す方針を固めたこと。
【乙第121号証】1木管第1-122号道路占用許可書・木津署長同意書(写し)
作成日:R1.10.3
作成者:木津川市長 河井規子・木津署長
立証趣旨:木津川市と木津署が、令和元(2019)年10月3日に市道上の門扉に係る道路占用許可を出したこと。
【乙第122号証】工事完了届(写し)
作成日:R1.10.18
作成者:村田商店代表 〈村田商店代表甲〉
立証趣旨:令和元(2019)年10月に、原告によって赤田川南側の市道上と橋の北のたもとに門扉が設置されたこと。
【乙第123号証】フェンスに対する覚書(写し)
作成日:R2.2.17
作成者:村田商店代表 〈村田商店代表乙〉
立証趣旨:原告が本件土地2共同所有者らに送った覚書の内容。
【乙第124号証】覚書についての返答及び申し入れ(写し)
作成日:R2.3.23
作成者:〈加茂町B〉、〈長尾2共同所有者L相続者〉、〈長尾2共同所有者M相続者〉
立証趣旨:本件土地2所有者が原告の覚書を拒否したこと。
【乙第125号証】令和元年度ASF侵入防止緊急支援事業における野生動物侵入防護柵の整備について(写し)
作成日:R2.3.19
作成者:奈良県農林部畜産課長
立証趣旨:奈良県農林部畜産課長が虚偽を記載した報告書を作成していたこと。
【乙第126号証】村田養豚場周辺の餌場の写真(写し)
作成日:文書中に撮影日を記載
作成者:被告
立証趣旨:原告が撒いていた餌が野生イノシシを村田養豚場周辺に誘引していたこと。
【乙第127号証】豚舎に侵入するカラスの写真(写し)
作成日:文書中に撮影日を記載
作成者:被告
立証趣旨:村田養豚場には防鳥ネットが張られておらずカラスが豚舎に侵入していること。
【乙第128号証】村田養豚場周辺にいる徘徊犬の写真(写し)
作成日:文書中に撮影日を記載
作成者:被告
立証趣旨:村田養豚場周辺の市道に多数の徘徊犬がいること。
【乙第129号証】市道上で行われている作業の写真(写し)
作成日:文書中に撮影日を記載
作成者:被告
立証趣旨:村田養豚場の敷地の間にある市道では訴訟提起後も日常的に重機にを使った作業が行われていること。
【乙第130号証】消毒を求める掲示の写真(写し)
作成日:R2.1.14
作成者:被告
立証趣旨:原告が市道上の門扉に、市道が衛生管理区域に含まれるかのような看板を掲示していたこと。
【乙第131号証】文書指示カード(写し)
作成日:R2.6.15
作成者:木津川市農政課 米田
立証趣旨:京都府家畜保健衛生所が、原告による餌撒きについて、飼養衛生管理基準上好ましくないと述べていること。
【乙第132号証】回答書(写し)
作成日:H27.1.23
作成者:奈良市土木管理課
立証趣旨:奈良市土木管理課が、里道境界が確定していないので、里道境界が確定すれば指導すると答えていること。