原告第3準備書面

令和元年(ワ)第338号 損害賠償等請求事件
原  告  株式会社村田商店
被  告  遠藤 千尋

原告第2準備書面

令和2年4月7日
奈良地方裁判所民事部合議係 御中
原告代理人弁護士

被告第2準備書面に対する反論

第1 被告第2準備書面「第3 山林侵奪、他人占拠(FACT.1) について」に対する反論

1 本件土地1の不法掘削について

(1)真実性
ア 不法掘削の要件
  1. (ⅰ)掘削権限のないこと
  2. (ⅱ)故意過失
イ 本件掘削行為へのあてはめ

(ⅰ)につき、本件掘削行為が借地契約の内容として含まれ、原告が掘削権限を有していたことを判示した裁判が確定している。よって、(ⅱ)を検討する までもなく、本件掘削行為は不法掘削ではない。

ウ 小括

よって、本件土地1の不法掘削に関する記事は「真実」でない。

(2)相当性

上記裁判が確定したのは平成24年4月である。従って、本件記事が掲載された平成28年6月時点において、既に、上記裁判は確定していた。また、被告が、 〈東鳴川C〉から聞き取ったとする平成27年10月22日時点においても、既に、上記裁判は確定していた。

そして、被告は、〈東鳴川C〉から聞いて、上記裁判がなされたことを知っていたので あるから、上記裁判の確定判決の内容も知っていたか、少なくとも、調査して知るべきであった。

よって、被告には、適示事実が真実であると信ずるについて、相当の理由はない。

2 本件土地1の不法占有について

(1)真実性
ア 不法占有の要件
  1. (ⅰ)占有権限のないこと
  2. (ⅱ)故意過失
イ 本件占有行為へのあてはめ

(ⅰ)につき、占有権限として、借地契約が存在していた。すなわち、上記裁判の反訴事件において、賃貸人の債務不履行を原因とする、原告からの借地契約の解除は、認容されなかった。そして、その後、借地契約当事者のどちらも、相手方に対して、契約解除の意思表示をしなかった。ましてや、本件土地1について、賃貸人から原告に対して、土地明渡請求がなされたことは訴訟内外を通じて一度もなかった。

加えて、原告から一部賃料の供託行為がなされていたし、また、令和元年8月8日、借地契約当事者間で一部賃料の授受も行われた。

賃貸人の事情によって、全期間の賃料の授受がなされていなかったからといって、借地契約の存在を否定することはできず、却って、質料の一部でも授受がなされたことは、質貸借契約の存在を認定するに足る。

よって、(ⅱ)を検討するまでもなく、本件占有行為は不法占有ではない。

ウ 小括

よって、本件土地1の不法占有に関する記事は「真実」でない。

(2)相当性

被告は、〈東鳴川C〉(賃貸人)が、被告に対し、平成27年10月22日に、「本件土地1の賃貸借契約はどのような解釈によっても解消している、この発言は非常に自信に満ちた態度で語られた。」などと主張している(被告書面15頁)。

原告は、被告のこの主張事実を否認する。また、仮に、〈東鳴川C〉から、そのような話があったとしても、それは契約の一方当事者の話に過ぎないので、被告は、それを鵜呑みにしてはならない。もし、被告が、〈東鳴川C〉の「賃貸借契約はどのような解釈によっても解消している」と言う根拠を聞いたとすれば、結局のところ、〈東鳴川C〉が、原告に対して、契約の解約及び本件土地1の明渡請求をしていないことが明らかになったはずである。

従って、被告の誤信には過失がある。

よって、被告には、適示事実が真実であると信ずるについて相当の理由はない。

3 本件土地2、本件土地3(以下「本件土地2等」という)の不法掘削について

(1) 真実性
ア 不法掘削の要件
  1. (ⅰ)「本件土地2等」の境界の越境行為
  2. (ⅱ)故意過失
イ 本件掘削行為へのあてはめ
(ⅰ)境界の越境行為
a 現時点において、境界未確定である。

木津川市作成の「市有土地境界図」は(甲7の3)から(甲7の4)に変更されている。従って、(甲7の3)は、境界確定の根拠にはならない。

また、被告は、(甲7の3)は、「本件土地2共同所有者らと、本件土地1の前所有者である〈東鳴川C〉との間で成立した、本件境界に関する合意を表す」とか 「(甲7の4)によって、合意は無効化していない」と主張している(被告書面37頁)が、その主張は否認し争う。

また、仮に(甲7の3)の元になる、何らかの合意があったとしても、それは、当事者間において。客観的資料に基づいた熟慮の上での合意ではなかった。

そもそも、境界は、当事者の合意で勝手に定められるものではない。

従って、(甲7の3)の「市有土地境界図」あるいは、被告が、その元になった当事者の何らかの合意を主張するとしても、それによって、本件境界は確定していない。

本件境界確定は、あくまでも、今後、本件土地2の共同所有者と本件士地1の現所有者である原告との間の境界確定訴訟において、確定されるべきものである。そして、境界確定訴訟の当事者適格は、本件土地2の共同所有者と原告以外の者にはなく、被告には、本件境界を語る資格がない。

b 航空写真・公図・古図

被告は、航空写真・公図・古図を煎ね合わせるなどして、原告の境界越境行為が明らかであるなどと主張する(被告書面 35頁)。

しかし、不正確な公図や古図を重ね合わせただけで、境界が確定するわけでは毛頭ない。被告は、「原告は古図に信頼を置いているようである」(被告書面35頁)などと主張するが、原告は、別に全般的に古図に信頼を置いているわけではない。原告が古図を取り上げたのは、(甲7の3)の「市有土地境界図」の一直線の境界が山林境界として余りに不自然であたっため、その境界主張を弾劾するために示した証拠に過ぎない。

そもそも、山林は、土地に高低差がある等のため、公図や古図などの土地の広さの表示については信用できず、それらを重ねても、証拠価値はない。

他方、山林境界において、その占有、管理状況は、山林の重要な資料になるところ、被告の作成した重ね図は、現実の占有状況と全く異なる。

たとえば、乙88の5において、「636」と表示されている土地の西端(左端)に撮形されている建物は、本来、「637」土地上の建物である。「637」と表示されている土地の中央に位置している建物は、本来、「639」土地上の建物である。「639」と表示されている土地の土地の西端と「631−2」と表示されている土地の東端にかかって撮影されている建物は、本来、「631−1」土地上に存する建物である。

このように、被告の作成した重ね図と現実の占有状況には、明らかに齟齬が生じているが、その理由は、上記公図、古図の土地の広さの表示の不正確性に加えて、被告の重ね方の角度にも問題があるからである。

ただし、本件において、これ以上、山林の境界問題に深入りする必要はない。重要なのは、山林境界を確定するためには、多岐に渡る要素を考察する必要があるが、結局のところ、山林境界は境界確定訴訟で決せられるしかないといううことである。そして、それは、境界確定訴訟の当事者適格ある者が論争すべきものである。

c 小括

以上のとおり、本件境界については、いまだ、境界が確定していない。その事実だけが、真実である。

よって、被告は、境界の越境行為の真実性を証明できない。

(ⅱ)故意・過失
a 〈東鳴川Cの亡父〉の指示

確定判決の理由中(甲5)で述べられている通り、平成14年1月上旬、本件掘削行為は、賃貸人〈東鳴川Cの亡父〉の境界の指示に従って、行なわれたものである(5頁(4))。

たしかに、平成19年夏ごろまでに、〈村田商店代表乙の父〉は、〈加茂町B亡夫〉らから、境界を侵奪していると抗議を受けたが(6頁 (12))、〈村田商店代表乙の父〉は、その抗議に対して、「民事調停の申立てを行い、正当な権利者として行動をとっている」(7頁13行目~)。

従って、〈村田商店代表乙の父〉は、〈東鳴川Cの亡父〉の境界の指示を信じて、「本件土地2等」を掘削したと評価できる。そして、〈東鳴川Cの亡父〉の境界の指示は、樹木の塊や成育状況などの林相の差異に基づく指示であったので、〈村田商店代表乙の父〉は、それを信頼したのである。

従って、〈村田商店代表乙の父〉の掘削行為は、仮に客観的に、境界を越境していたとしも、無過失である。

b 被告の境界根拠

また、被告は、(甲7の3)の「市有土地境界図」あるいは、その元になった当事者の何らかの合意を、境界の根拠として主張するが、そのようなものは、〈村田商店代表乙の父〉の掘削当時は存在せず、後から作られたものであって、〈村田商店代表乙の父〉は、掘削当時、それを知る由もない。

また、被告は、航空写真、公図、古図を重ね合わせるなどして、正しい境界を主張しようとしているが、当時賃借人であった〈村田商店代表乙の父〉が、所有者である〈東鳴川Cの亡父〉の指示する境界を信じ、あえて、航空写真や公図や古図を確認しなかったとして、責められることはない。

よって、この意味においても、〈村田商店代表乙の父〉に過失はない。

c 小括

以上から、いかなる意味においても、掘削行為の故意過失はない。

よって、境界の越境行為の真実性如何に関わらず、不法掘削の記事は真実ではない。

(2)相当性

被告は、本件記事掲載時、次の事実を知っているか、当然、知るべきであった。

  1. (i)不動産侵奪罪の告訴に対して不起訴になって、刑事事件として問責されなかった事実

  2. (ⅱ)本件土地2共同所有者らの損害賠償請求権は、平成19年夏ごろから3年経過した平成22年には時効消滅しているため、本件土地2共同所有者らの民事上の権利が喪失しており、記事掲載の平成28年6月時点では、それから5年以上が経過している事実

  3. (ⅲ)掘削行為当時には、(甲7の3)の「市有土地境界図」は作成されていないし、その元になった当事者の何らかの合意のほか、いかなる境界合意も境界確定もなされていなかった事実

よって、被告には、適示事実が真実であると信ずるについて相当の理由はない。

第2 被告第2準備書面「第4 赤田川下流の水質汚濁(FACT.4)」に対する反論

1 名誉毀損事実

(1) 本件記事においては、村田養豚場の下流に限って、赤田川の水質汚濁が見られるということ、また、養豚場下流における住民らからの話として、しいたけ栽培のためのポンプが糞尿やゴミで詰まるといったことや、養豚場下流付近の赤田川の写真を撮影した人物がその後発熟したということ等が記載されている。

さらに、「人が少なくなる時間を見計らって汚水が流されているのかもしれません」等、村田養豚場が赤田川の水質汚濁の原因であることを前提とした記載がされているものであり、これらの内容は、「村田養豚場(村田畜産/村田商店) による不法行為や迷惑行為」(甲2、1頁本文6行目~9行目)という形で括られている。

これらの記載からすれば、本件記事は、「村田養豚場が赤田川の水質汚濁の原因者」であり、それにより、村田養豚場の下流、農業や人体への被害が出ており、 原告には「違法性がある」との認識を与えるもので、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。

(2) これに対し、被告は、「下流域で農作目全般に被害が及んでいるとは記述していない」、「撮影者が帰宅後熱が出たことの原因が、赤田川の水質汚濁にあるとも断定していない」、「原告が、汚水を流しているとは断定していない」等主張する。

(3) しかし、名誉毀損の判断に当たっては、当該記事の特定の文言のみよって判断されるべきではなく、記事の趣旨、目的、当該部分の前後の文脈、見出し、体裁等も考慮した上、当該記事全体から、一般読者が受ける印象及び認識に従って判断すべきである。

本件記事は、確かに、原告が経営する村田養豚場が赤田川の水質汚濁源であると直接断じている部分はない。しかし、本件記事についてみるに、本件記事が全体として、「村田養豚場による不法行為や迷惑行為」として括られており、養豚場下流での農業被害、人体への害が記載され、「人が少なくなる時間を見計らって汚水が流されているのかもしれない」等記載していることからすれば、一般読者をして、村田養豚場の不法行為ないし迷惑行為によって、赤田川が汚染され、現実的に農業や人体への被害が生じていると認識させるものであることは明白であり、原告の社会的評価を著しく毀損するものであるとの評価を免れない。

2 真実性

(1)原告が赤田川の水質汚濁源であるということについて

ア 被告は、平成29年11月の木津川市赤田川水質汚濁状況報告等(乙15)において、赤田川の水質汚濁源が村田養豚場付近であることまでは特定しているとし、本件記事の記載内容は虚偽ではない旨主張している。

イ 被告が指摘する木津川市赤田川水質汚濁状況報告書(乙15)は、「養豚場周辺の流入水に強い有機物汚濁が認められたことから、府県境に位置する養豚場付近で、高濃度かつ大量の有機汚濁成分が排出されて、赤田川の水質汚濁を引き起こしていると考えられる。」(25頁)との記載があるが、この記載はあくまでも赤田川の水質汚濁原因を村田養豚場に特定しているものではないことは明らかである。

また、これまで原告が繰り返し主張しているとおり、村田養豚場は、その排水検査において、水質汚濁防止法に定める排水規制に違反したことはなく、赤田川を所管する奈良市より、排水に関し、行政法上の指導を受けたことは一度もない。

ウ このような状況にあって、「村田養豚場が赤田川の水質汚濁の原因者である」という事実が真実であるとはいえない。

しかし、被告は、本件記事の中で、村田養豚場の少し下流における山林の持ち主の被害や、村田養豚場より下流に限って糞尿あるいはどぶ川のような臭いする、人が少なくなる時間帯を見計らって汚水が流されているのかもしれない等記載し、一般的な読み手をして、村田養豚場が赤田川水質汚濁の原因であるとの認識を与えているものであり、かかる記事内容が真実であるとはいえない。

(2)原告には違法性があるということについて

ア 原告が従前主張をしてきており、この点については、被告としても争いがないと考えられるが、原告は、赤田川を所管する奈良市より、養豚場の排水について検査を受けているが、その検査の結果が、水質汚濁防止法が定める基準に違反したことはなく、行政法上の指導を受けたこともない。

イ したがって、原告には、その養豚場経営に関し、公法上の違法性は全く存在していない。

ウ さらに、私法上の違法性が存在しているか否かという点についても、原告第1準備書面において主張のとおり、現状において、地域住民や農作物に対し、実害が出ているとの報告が、山城広域振興局山城南農業改良普及センターにされたことはなく、具体的な権利利益侵害状況は発生していないものである。

この点、被告は、「赤田川下流で具体的な農業被害が発生していると指摘している箇所もない」と主張をしており、本件記載の名誉毀損事実該当性について争っているものと考えられるが、当該記事が、「原告の違法性」を摘示するものであるとの評価がされた場合、その真実性がないということについては争いがないものと思われる。

エ したがって、原告に違法性があるということについても、その真実性が認められないことは明らかである。

2 相当性

(1)相当性の判断材料

被告は、被告第2準備書面において、本件記事内容が真実であると主張する根拠と同様の根拠をもって、「少なくとも、被告には、摘示事実が真実であると信ずるについて相当の理由があった」旨主張していると考えられる。

しかし、真実相当性は、被告が行為当時に、相当の資料に張づいて本件記事の作成を行ったか否かという点についての判断であり、「かかる相当理由の存在の有無を判断するための資料としての「事実」は、行為当時において存在することを要する」(最判平成14・1・29判時1778号49頁)ものである。

被告が本件記事を掲載したのは、平成28年6月であるから、この時点において存在する事実のみが、真実相当性の判断材料となるものである。

(2)本件における相当性

被告は、平成29年4月10日の段階で、木津川市から赤田川の水質調査を委託されていたエヌエス環境株式会社による調査結果(乙8)及び平成29年11月の木津川市赤田川水質汚濁状況調査報告書(乙15)を中心として、村田養豚場が赤田川の水質汚濁源である可能性についての主張をしているものと考えられるが、これらの事実は、被告が本件記事を掲戦した平成28年6月の時点においては、存在していないものであるといわねばならない。

したがって、本件記事掲載時において、被告が、「村田養豚場が赤田川下流の水質汚濁の原因者である」ということが真実であると信じるにつき相当の理由があったとは到底いえない。

被告が、赤田川の水質汚濁によって現実の被害が生じており、原告には違法性があると信じたことについても、当然相当性は認められない。

3 小括

以上のことからすれば、「赤田川の水質汚濁(FACT.4)」に記載された内容は、村田機豚場が赤田川の水質汚濁源であり、そのために実際の被害が生じているのであって、原告には違法性がある、という虚偽事実を摘示したものであり、被告が、それを真実であると信じるにつき正当な理由があったともいえないため、原告に対する名誉毀損を構成するものである。

以上