令和5(2023)年10月13日 「衛生管理区域に関する質問書」に対する農林水産省の回答
このページの末尾にこの回答に関する当会の見解があります。ぜひお読みください。
- 「1」に対する回答について
- 「2」に対する回答について
- 「3」に対する回答について
- 「4」に対する回答について
- 「5」に対する回答について
- 「6」に対する回答について
- 「7」に対する回答について
- 結語
上記回答書に関する当会の見解
「1」に対する回答について
本回答は非常にわかりにくく、平成23(2011)年に農林水産省が作成した「飼養衛生管理基準の改正に関するQ&A」の「Q10」の存在を押さえておかなければ、内容を理解することができません。
上記「Q10」の「(答)」にあるとおり、平成23(2011)年当時は、「両農場が道路を隔てて隣接」している場合には「公道や私道を含めて両農場を同一の衛生管理区域とみなすことができる」とされていましたが、一方で「この場合には、公道を通行する人や車両に消毒を義務付けることはできない」とされました。
ところが、本回答では、令和3(2021)年10月以前において、質問書の資料3に書かれた条件を満たした場合は、「公道や私道を含めて両農場を同一の衛生管理区域とみなすことができた」としています。ここで重要なのは「公道を通行する一般通行者に対して消毒や防護服の着用を求めることが可能だった」とは書いていないところです。それも当然で、なぜなら先ほど見たように、平成23(2011)年に作成されたQ&Aでは「公道を通行する人や車両に消毒を義務付けることはできない」とされていたからです。
ではなぜ平成23(2011)年に作成されたQ&Aでは単に「両農場が道路を隔てて隣接」している場合には「公道や私道を含めて両農場を同一の衛生管理区域とみなすことができる」とされていたところ、本回答ではそこに厳格な条件をつける必要があったのでしょうか。その理由としては、本回答が指摘しているように、令和2(2020)年7月の家畜伝染病予防法の改正で、衛生管理区域に出入りする人に身体を消毒することが義務付けられたこと(家畜伝染病予防法の第八条のニ)によって、家畜伝染病予防法と平成23(2011)年に作成されたQ&Aの「Q10」に矛盾が生じてしまったことが考えられます。
家畜伝染病予防法は第十五条で通行の制限または遮断について規定しており、「都道府県知事又は市町村長は、家畜伝染病のまん延を防止するため緊急の必要があるときは、政令で定める手続に従い、七十二時間を超えない範囲内において期間を定め、牛疫、牛肺疫、口蹄てい疫、豚熱、アフリカ豚熱、高病原性鳥インフルエンザ又は低病原性鳥インフルエンザの患畜又は疑似患畜の所在の場所(これに隣接して当該伝染性疾病の病原体により汚染し、又は汚染したおそれがある場所を含む。)とその他の場所との通行を制限し、又は遮断することができる」と定めています。つまり、家畜伝染病予防法上、通行の制限または遮断が可能であるのは、緊急時の72時間までということになります。
一方、令和2(2020)年7月の家畜伝染病予防法の改正により、衛生管理区域に公道が含まれている場合、通行人に対しても身体の消毒が義務付けられることとなったため、「公道を通行する人や車両に消毒を義務付けることはできない」とした、平成23(2011)年に作成されたQ&A「Q10」の「(答)」の「2」はこの時以降無効となったとも考えられます。そうだとして、もしこの改正部分を遵守しようとすると、通行人が消毒を拒絶した場合は通行できないということになりますので、通行人への消毒の強制は「通行の制限」と同義であると言えます。したがって、公道を衛生管理区域に含めている限り、消毒の強制という「通行の制限」を無期限に行う必要が出てきてしまうのです。しかしそれは、家畜伝染病予防法第十五条が認めている「通行の制限」の範囲を、理由としても期間としても大きく超えるものです。そこで本回答において、農林水産省としては、令和2(2020)年7月の家畜伝染病予防法の改正以降は、質問書の資料3に書かれた条件を満たした場合のみ、「公道や私道を含めて両農場を同一の衛生管理区域とみなすことができる」ということにしたのだろうと考えられます。
以上を整理すると次のようになります。なお「衛生管理区域の設定」は、平成22(2010)年の口蹄疫・鳥インフルエンザの蔓延を受けて、平成23(2011)年に改正された飼養衛生管理基準から導入されたもので、それ以前にはこうした規定はありませんでした。
期間 | 公道を衛生管理区域とみなす | 通行人に消毒を求める |
---|---|---|
平成23(2011)年〜 | ○可能(Q&A) △条件を満たせば可能(本回答) |
×不可(Q&A) △条件を満たせば可能(本回答) |
令和2(2020)年7月〜 | △条件を満たせば可能 | |
令和3(2021)年10月〜 | ×不可(手引き) △条件を満たせば可能(本回答) |
このように整理すると、やはり農林水産省としては、令和2(2020)年7月の家畜伝染病予防法改正は、平成23(2011)年作成の「飼養衛生管理基準の改正に関するQ&A」の「Q10」を無効化したと考えているように思われます。そのため本回答は「はい」となっているのでしょう。
もっとも、より正確を期して、平成23(2011)年作成のQ&Aの「Q10」では「公道を通行する人や車両に消毒を義務付けることはできない」とされていたことに触れてもよさそうなものですが、農林水産省としては、むしろ何らかの事情でこのことに触れたくなかったのかもしれません。また、確かに質問書資料3の条件が満たされているなら、この条件には通行人への消毒の強制が可能となるような道路使用が認められていることが含まれているのですから、Q&Aや衛生管理基準がどうあれ、公道を衛生管理区域に含むことも、通行人に消毒を強制することも可能だと言うことはできそうです。
しかし、質問書資料3に書かれた農林水産省の見解は「法的に不可能なことが実現できるならば、公道を含めて衛生管理区域を設定できる」と言っているに等しく、非常に奇妙なものです。奈良県畜産課の説明によれば、「家畜の飼養者が公道を使用することができる特段の事情」とは、木津川市の道路占用許可と木津署の道路使用許可を指すとのことですが、通行人に「消毒や衣服・靴の交換等を行うこと」を強制するような、長期にわたる事実上の「通行の制限」を含む道路占用あるいは道路使用を木津川市あるいは木津署が許可するとは到底考えられません。
道路法において、道路管理者は、道路の構造を保全すること、または、交通の危険を防止することを目的とする場合のみ、管理している道路について、通行の禁止又は制限ができます(道路法第46条及び第47条)。それ以外の理由で、道路管理者は通行の禁止あるいは制限を行うことは法律上認められていません。また、道路交通法第七十七条に定められた道路使用許可についても、基本的に道路使用が交通の妨げとならないことが求められますから、農林水産省が提示した条件は法的にかなり無理があります。
農林水産省が令和3(2021)年10月5日に作成した「飼養衛生管理基準遵守指導の手引き(豚及びいのししの場合)」では「不特定多数の者が出入りのたびに消毒や衣服・靴の交換ができない場所(公道、生活居住区等)は、衛生管理区域の範囲に含めることはできません」と明記されています。なぜ農林水産省はこの記述をあやふやにするようなことをわざわざ奈良県畜産課に答えたのでしょうか。都合のいい解釈を追認するよう、奈良県畜産課があまりに執拗に求めてくるので、わざと法律的に無理のある条件を示して、「やれるものならやってみろ」と突き放すような意図があったのかもしれませんが、全く不可解です。
ところで奈良県畜産課は、「木津川市道を衛生管理区域に含めた上で一体的に管理することが、これまでの経緯、周辺の状況から総合的に判断して、やむを得ない状況であり最善の方法である」との、村田養豚場(村田商店/村田畜産)の考えを追認し、これを根拠に木津川市に道路占用許可を要請しています。
なお、奈良県食と農の振興部の阪口次長(元畜産課長)は当会代表と面談した際、「これまでの経緯」とは、奈良県の要請書が最初に木津川市に提出された令和4(2022)年5月ごろまでの間、村田養豚場において「木津川市道を衛生管理区域に含めた上で一体的に管理」してきたことを指すと説明しました。しかし本回答によって、そのようなことはあり得ないことが明らかとなりました。
なぜなら、令和4(2022)年5月以前に、村田養豚場が、通行人に「消毒や衣服・靴の交換等を行うこと」を強制することが可能な「家畜の飼養者が公道を使用することができる特段の事情」を有していた事実は存在しないからです。また今現在もそのような事実は存在しません。村田養豚場を経営する村田商店(村田畜産)が、木津川市と木津署から、市道上に設置した門扉について道路占用許可と道路使用許可を得たのは、令和元(2019)年10月が最初ですが、この道路占用許可に当たって、木津川市は門扉を日中は開扉しておくことや夜間も施錠しないことなどを条件としました。その後令和4(2022)年5月に、奈良県からの要請を受け、木津川市と木津署は村田養豚場が通行人に防護服の着用などを「お願い」することは容認したものの、そうしたことを通行人に強制することは認めず、通行人が「お願い」を拒否した場合も、その人が気持ちよく通行できるようにすることを求めました。
したがって本回答に照らせば、村田養豚場が公道を含めて衛生管理区域を設定することが可能だった時期は、過去、そして現在に至るも、一度も存在しないということになります。つまり、奈良県畜産課が追認する「木津川市道を衛生管理区域に含めた上で一体的に管理することが、これまでの経緯、周辺の状況から総合的に判断して、やむを得ない状況であり最善の方法である」との村田商店(村田畜産)の主張には根拠がありません。また公道を衛生管理区域に含むことが必要となるような、村田養豚場に特有の「周辺の状況」とは何を指すのか全く不明です。
仮に過去において、村田養豚場が「木津川市道を衛生管理区域に含めた上で一体的に管理」していたとすれば、それはとりもなおさず村田商店(村田畜産)が木津川市と木津署の許可を得ずに市道を使用していたということになります。それは強く違法性が疑われる状況なのであって、奈良県畜産課が望ましいものと捉えるべき状況ではありません。
いずれにしても、「これまでの経緯」にあたる村田養豚場は、下動画のような状態でした。公道か敷地内かにかかわらず到底衛生が管理されているようには見えません。この状態のどこに、公道を衛生管理区域に含めることが必要だとする根拠が見出せるのでしょうか。奈良県畜産課が畜産農場の衛生管理に関してまともな判断能力を有しているようには思われません。
「2」に対する回答について
この回答は、事実上「いいえ」と答えているも同然です。したがって、奈良県食と農の振興部阪口次長が、平成3(2021)年10月以降、平成3(2021)年11月9日より前に、電話で農林水産省から口頭による回答(門扉を常時閉鎖して通行時に通行人にインターホンを押させて対応するのが望ましい)を得たとしていることには、根拠がありません。
「3」に対する回答について
奈良県食と農の振興部阪口次長(元畜産課長)は、木津川市と木津署に対し、公道を衛生管理区域に含むことについて、「国から了解を得ている」と説明していますが、本回答によって農林水産省はそのように考えていないことが明らかとなりました。
「4」に対する回答について
本回答により、質問書資料3に記載された農林水産省の見解を根拠として、奈良県畜産課が木津川市及び木津署に道路の占用許可・使用許可を求めることは、少なくとも同見解の意図するところではないと明らかになりました。また農林水産省が「はい」と回答しなかったことは、農林水産省が奈良県畜産課の対応について、必ずしも適切ではないと考えていることを示唆しています。
「5」に対する回答について
本回答の「他の行政機関に自らの考えを述べること自体は否定されるべきものではない」との文言からは、農林水産省としては、奈良県の対応は望ましいものではないと考えていることが滲みます。質問書資料3の農林水産省の見解にも「公道を含めて衛生管理区域を設定することは、原則として認められません」とあることからすれば、当然のことと言えます。
「6」に対する回答について
本回答では「はい」か「いいえ」が明示されていませんが、回答内容からすると「いいえ」以外の解釈がどのような論理で可能となるのか、全く見当もつきません。すなわち、「公道上に門扉を設置することが許可されている一方、一般通行者に対し防護服着用や消毒を強制することは認められていない公道を、衛生管理区域に含めること」はできません。
「7」に対する回答について
本回答は、「餌の混ぜ合わせ作業を行う場所に防鳥ネットが設置されていない状態のみをもって直ちに(飼養衛生管理基準)不遵守とはなりません」としていますが、「直ちに不遵守とはなりません」という文言からは、農林水産省として、「餌の混ぜ合わせ作業を行う場所に防鳥ネットが設置されていない状態」が、飼養衛生管理基準の不遵守が疑われる状態であることは認めているものと考えられます。また「飼養衛生管理基準遵守指導の手引き(豚及びいのししの場合)」の「30」の趣旨からすれば、「給餌」のための餌の混ぜ合わせが、餌が剥き出しの状態で屋外で行われている時点で、直ちに不遵守とされても全くおかしくないように思われます。
村田養豚場では2023年10月現在も、敷地の間にある道路上を犬が自由に徘徊し、村田養豚場付近には多数のカラスが集まっています。少なくともこのような衛生管理区域全体の状況において、路上などの屋外で餌が剥き出しの状態で餌の混ぜ合わせ作業を行うことは、当然に飼養衛生管理基準不遵守と判断されるべきだと考えます。逆にこうした状況が飼養衛生管理基準不遵守とならない(奈良県の判断では不遵守とされていません)のであれば、飼養衛生管理基準そのものの有効性に疑問を持たれても仕方がありません。
結語
農林水産省の回答書によって、村田養豚場の敷地の間にある市道(公道)を衛生管理区域に含む必要があるとする奈良県畜産課の要請に根拠がないことが、下記のとおり改めて明らかとなりました。
- これまで村田養豚場が「公道を使用することができる特段の事情」を有していた事実はないから、奈良県畜産課が公道を衛生管理区域に含めることをやむを得ないとする根拠である「これまでの経緯」に「木津川市道を衛生管理区域に含めた上で一体的に管理すること」は含まれ得ない(「1」に対する回答)。
- 農林水産省が、奈良県畜産課に「門扉を常時閉鎖して通行時に通行人にインターホンを押させて対応するのが望ましい」という趣旨のことを口頭で説明した事実はない(「2」に対する回答)。
- 質問書資料3の見解は、公道を衛生管理区域に含むことを農林水産省として了解したものではない(「3」に対する回答)。
- 質問書資料3の見解を根拠に奈良県畜産課が木津川市と木津署に道路占用許可・道路使用許可を求めることは、同見解の意図するところではない(「4」に対する回答)。
- 公道を所管する警察署などから、公道を含めずに衛生管理区域を設定し、公道で分断された敷地をそれぞれ柵で囲うよう求められてなお、都道府県の畜産担当部署が、公道を衛生管理区域に含めることを認めるよう警察署などに求めることは必ずしも適切ではない(回答が「はい」ではない)が、他の行政機関に自らの考えを述べること自体は否定されるものではない(「5」に対する回答)。
- 公道上に門扉を設置することが許可されている一方、一般通行者に対し防護服着用や消毒を強制することは認められていない公道を、衛生管理区域に含めることは論理的に不可能(「6」に対する回答)。
村田養豚場の敷地の間にある市道について、この市道(公道)を衛生管理区域に含む条件(質問書資料3)が満たされないのであれば、当然市道部分は衛生管理区域から除外されなければなりません。そうすると、この市道を通行する人に、防護服の着用や消毒を求めるが根拠がなくなり、この市道を門扉で封鎖する根拠もなくなります。したがって木津川市と木津署は、村田養豚場の敷地の間にある市道について、道路占用許可と道路使用許可を直ちに打ち切るべきです。そのことが、今回の農林水産省の回答によって、ますます明らかになったと言わなければなりません。